B2Bマーケットプレイスは何故消えたか。/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2019年8月7日 10時0分
野町 直弘 / 株式会社クニエ
皆さんはマーケットプレイスをご存知でしょうか。
2000年頃、インターネットが急速に普及してきた時代にでてきたサービスで、Webサイトを通じて、売り手と買い手を結び付ける電子的な取引所のことを言います。
簡単に言いますと、「売ります」「買います」情報をつなげるインターネット上のサービスでしょう。インターネットは、特に新しい売り手や買い手を見つけるための取引コストを圧倒的に安価にできる仕組みであり、インターネットのメリットを活用できるマーケットプレイスは誰もが成功すると考えていました。
特にB2Bの取引においては完全オープン型のマーケットプレイスだけでなく業種特化型のマーケットプレイスも生まれており、次第に業種特化型が主流になりました。業種特化型ではデファクト化されたツールや業種の特性に適合したツールを多くの同業種企業で共有することで、ツール活用のコストや情報伝達コストを低減するということも期待されていたのです。
ところが今日、B2Bのマーケットプレイスとして現存するものは殆ど残っていません。自動車業種に特化したコビシントやタイヤ業界に特化したラバーネットワークなども今は姿を消しています。業種特化することで参加企業の共同調達をも推進しようという目的もあった訳ですが、そのような取組みが成功したという話も殆ど聞きませんでした。
一方でB2Cマーケットプレイスは益々進化しました。Yahooオークションやメルカリなどのマッチングサービスは拡大しています。また、商取引のマッチングの場を提供するというアマゾンのマーケットプレイスは日本国内でもポピュラーな仕組みになりました。またB2B分野でもアスクルやMonotaROなどのECサイトは今も好調が続いています。
何故このような結果になったのでしょうか。色々な理由が考えられますが、今回は買い手側の原理から考えてみましょう。
B2Bの取引は基本的に長期継続的な取引になります。数年に一回しか購入しないような設備についても、基本的には購入先は限定されますし、同じサプライヤからの購入になるケースが多いです。一方でB2Cは単発な取引になります。
メルカリで同じ出展者から続けて購入する、というのは殆どないでしょう。同じ取引先から長期継続的に購入することが多いので、そもそもB2Bの取引ではサプライヤを探すニーズが低いと言えます。
調達購買のコンサルティングをやっていると、支出分析と言って、何をどのサプライヤから、いくら位購入しているかを分析するのが定石です。多くの企業の分析から、感じるのはあまりにもサプライヤが集約されているケースが多いことでしょう。それも工場を中心に近隣立地のサプライヤとの取引が大部分を占めることが多いです。
本来ならそういう状況において、新しいサプライヤを探すことは、競争環境を作ることにつながりますが、新しいサプライヤへ切替を行うことはバイヤーにとってはリスクになります。
「前のサプライヤはこういうことをやってくれたのに、、」とか開発部門やユーザーの声が聞こえてくるからです。
このように長期継続的な取引であり、且つサプライヤを切替えるニーズ自体が低いので、そもそも新しいサプライヤを探すニーズが低いのでマッチングサービスを使う必要性がない、というのが理由の一番目に上げられます。
一方でECに適していると言われる汎用品などを購入する場合、新しいサプライヤや代替品を採用することのリスクは、専門品やカスタマイズ品を購入するのに対してあまり高くありません。しかし、バイヤーはどうしてもサプライヤや購入品を切替えることによるリスクを気にします。そういう時にはB2Bの取引では商社を活用するでしょう。つまり商社に何らかの保証を求めるのです。
アスクルやMonotaROなどのECサービスは事業者が仕入をし、販売をする商社モデルになります。バイヤーはEC事業者に切替のリスクを転嫁することができるのです。つまり、EC事業者に売り手や購入品の保証をしてもらっているサービスでしょう。
B2Cにおいてはこのような保証を評価という形でサービス事業者が提供しています。つまり口コミ情報で取引リスクを軽減することができるから利用者は購入できるのです。
このように何らかの口コミ情報や専門家(EC事業者)の評価や保証がないとバイヤーはリスクを冒して購入しません。EC事業はこのような機能をEC事業者が果たしますが、マーケットプレイスは基本的にはバイヤーが自分達のリスクで購入するのでリスク転嫁ができなかったというのがB2Bマーケットプレイスが普及しなかった二つ目の理由です。
最後に三つ目の理由ですが、インターネットでの取引はどうしても透明性が高くなってしまいます。ECサイトやB2Cのマーケットプレイスでは何を幾らで買った(売った)か、誰もが見ることができます。しかしB2Bの取引においては取引条件は全て相対で決まります。価格条件、納入条件、支払条件などは全て個別交渉であり、そこには相対取引の守秘義務が生じるのです。逆に言うと透明性が確保されてしまうとトラブルにつながる可能性もあります。これが三つ目の理由です。個別交渉が主となるB2B取引とインターネットの透明性は性質的に沿わないということでしょう。
このような三つの、特に買い手側から見た、理由からB2Bマーケットプレイスは成り立たなかったと言えます。考えてみれば、ごくごく当たり前の理屈です。
しかし、インターネットを介した商取引のメリットは非常に高いものがあります。B2Bの取引の中でもインターネット取引の適合性が高いものや、メリットがより高いサービスが今後出てくることは容易に予測されるでしょう。
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