何とかしろ! からの脱却/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2023年2月8日 10時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
昨年末の記事で、私は、経営における「サプライチェーンの重要性」が増してきていることを述べました。また、その中で、足元の業績好調企業を取り上げ、そのいずれの企業もサプライチェーンや調達改革が功を奏し、好業績を上げていることを、取上げています。
中でも、ダイキン工業は、有事対応で中国製部品が無くてもエアコンを生産できるサプライチェーンを構築する、と発表しており、中核機能にかかわる部品の内製化や、取引先にも中国外での生産を要請するなどの取組みを行っております。また、同社は、2217億円の営業利益(22年度予測)のうち、売価アップで940億円の増収につなげているとのことです。つまり、原材料費の高騰に対して売価反映が上手くできている企業と言えます。
また、昨年の10月に東京商工リサーチが約5,500社に2022年度の業績見通しについてアンケート調査を行い、その結果を発表しています。その調査を読みますと、売上高が増収見通しの企業は全体の36.3%となっており、比較的増収見通し企業が多いことが伺えます。また、増収見通しの理由として、販売単価の値上げを理由としている企業は増収見通し企業のうち、45.6%に上っているとのこと。また、同調査では、2022年度に増益見込みの企業は26.7%に対して、減益見込み企業は34.4%となっており、厳しい状況を見込む企業が多くなっています。また、減益の要因としては77.3%の企業が原材料価格の高騰を上げており、おそらく、原材料の価格高騰を販売価格に転嫁しきれていない企業が減益となっているようです。
このように2022年度の企業業績は、価格転嫁できている企業とできない企業で、二極化が拡大しています。
以前はこういう原材料価格高騰時でも、価格転嫁は顧客や市場に許容されないため、企業経営者は調達・購買部門に対して「(値上げを受容しないで)何とかしろ」と指示することが多かったでしょう。それに対して、調達購買部門も、値上げを受容しない、値上げ時期をずらす、部分的に認める、など、経営の要請に「何とか対応していた」のです。
一方で、昨今の供給不足問題ですが、以前であれば、これも経営トップや工場トップは調達・購買部門に対し、「何とか(対応)しろ!」と指示していました。「サプライヤと交渉して、何とかするのが、君たちの仕事だろ!」です。
以前私が現場でバイヤーをやっていた時に、こういう事件がありました。出図の遅れで、新製品用の部品の納期が、全く間に合いそうにない、という事件です。この時も「購買部門、何とかしろ!」という声があったことを覚えています。そしてこの時は購買担当常務が「私が責任を持って何とかします!」と宣言したのです。その時の購買担当が私でした。
常務が責任を持って何とかする、と発言されたので、まだ若かった私はどんな素晴らしい解決策があるのだろう、と期待していたのです。しかし、経験のある方は分かると思いますが、工期短縮の検討などは、既に、どこの企業もやっており、細かい工程表とにらめっこしても、短縮の余地など、殆どないケースが多いもの。また、いくつもの工程が並行して走っているので、ある工程の期間を、どうにか短縮しても、他のボトルネック工程が短縮出来ない限り、全体の工期短縮は図れません。
実際に、その時も、私は部品サプライヤだけでなく、細かな工程短縮の検討のため、金型屋さんや木型屋のおやじまで、打合せに来てもらいましたが、「これ以上の工期短縮は難しい」というのが参加者の意見でした。
ところが、その場で、常務がお願いしたのは、「うちの仕事を優先してくれないか」だったのです。結局、工期を短縮するためには、他社の仕事の代わりに自社の仕事を入れてもらうしかありません。何とかするというのはそういうことであり、他社の仕事を遅らせて、うちの仕事を優先してもらうことで納期を短縮させるという方法だったのです。
そこには、何か新しいやり方やブレークスルーなどもなく、単に「(うちの仕事だけ)何とかしてくれ」と常務がお願いしたわけです。ところが、結論としては希望納期に間に合わせることができました。
こういうやり方を、納期が間に合わない「何とかしろ!」のケースでは調整してきたのですが、今は、どの企業も入手困難の状況は同じであり、他社に優先して、自社の供給をお願い、というのは、通用しない状況になってきてます。
また、原材料の高騰についても、製品転嫁できないから「何とかしてくれ」の対応は既に困難となり、自社の売価への転嫁が求められるようになったのです。
「何とかしろ!」では「何ともならない」時代になりました。経営トップや調達部門長は意識を変えなければなりません。
原材料高騰に対しては、全社で協力し、顧客への値上げを説明し、理解してもらい、売価への反映を行っていかねばならないでしょう。そのためには、営業部門だけでなく、調達購買部門や物流部門、生産部門や原価管理部門などの協力が必要になります。また、そのための体制整備や意思決定のための仕組みづくりが必要となるでしょう。
供給不足や納期遅れに対しては、日頃からサプライヤに有利に扱ってもらうための関係性づくりや、代替品採用の意思決定のスピードアップ、新規開発段階から調達性の良い部品の採用などを全社で取り組むための仕組みづくりなどが、必要となります。
このように、2023年は「何とかしろ!」からの脱却を進めていく時期になるでしょう。既に企業業績を見ると早期に「何とかしろ!」からの脱却ができ、サプライチェーンを柔軟に構造改革する準備を進めている企業も少なくありません。多くの企業がこの旧態からの脱却のため、「何とかしろ!」的な発想からの意識改革から進められることを、期待してします。
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