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もしアンドロイドが車を作ったら?/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2014年9月17日 17時25分

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野町直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

「もしアンドロイドが車を作ったら」のアンドロイドはGoogle社の開発しているOSの”Android”ではありません。アンドロイド・インダストリーズという自動車生産会社のことです。アンドロイド・インダストリーズ社(以下アンドロイド)は自社ブランドを持たず、GM、クライスラーなどの米自動車大手3社を顧客に持ち生産を委託されている企業です。言い換えると自動車版EMSでしょう。

前回は、日本の電子産業が衰退したのは世界的な水平分業モデルからの遅れがその原因の一つであると、元日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏が分析していることを取り上げました。

私はこの状況を「日本企業が個別企業の枠内で国内企業同士のシェアなどの近視眼的な競争に夢中になっていて、海外メーカーは「あそこは品質が悪いから問題外。」などと高をくくっているうちに新しいルールやビジネスの仕組みが作られてしまい、その新しいルールでやられてしまう、よくあるパターン」だと述べています。

同じ様な動きが自動車業界でも出てきているようです。

「もしアンドロイドが車を作ったら」のアンドロイドはGoogle社の開発しているOSの”Android”ではありません。アンドロイド・インダストリーズという自動車生産会社のことです。アンドロイド・インダストリーズ社(以下アンドロイド)は自社ブランドを持たず、GM、クライスラーなどの米自動車大手3社を顧客に持ち生産を委託されている企業です。言い換えると自動車版EMSでしょう。

8月5日付けの日経新聞に同社の記事が掲載されています。それによるとアンドロイドは車のなんでも工場であり、「どのメーカーのどの車、どの部分でも同じやり方で作っているのだ」そうです。そのため生産ラインでは、ラインを流れる台車の台の部分を工夫することで混流生産を可能にしている。また従業員も2時間半毎に担当を変えることで、多能工スキルを身に付けさせているとのことです。

その生産性の高さから、米ビッグ3が生産の外部委託を増やしたこともあり、アンドロイドはこの5年で工場数が12から20に拡大するほど、業績も好調に推移しています。現在は米国内での生産が主流であるものの、日本向け自動車メーカーへの売込みも積極的に推進しているようで、近い将来にアジア地域で工場を持つことになるとのことです。

アンドロイドは2013年で約10億ドルの売上をあげており受託生産会社としては米国最大手になります。また現在は三井物産が筆頭株主になっているようです。

従来自動車産業は摺合せ型の典型例であり、標準化やモジュール化は(会社によって多少異なりますが)当初考えていたようには進んでいません。そのため、多数の部品を設計段階から作り込み、自社工場でじっくり摺合せながら仕上げていく工程が日本型「ものづくり」に適合していると考えられています。最近は複数の自動車メーカーで部品の標準化や統合化が進み始めましたがそれも一部の品目だけです。

そういう意味では生産の外注化や水平分業などの動きは、現在は米国を中心とした取組みであることは確かなこと。しかし、2つの要素が生産の外注化・水平分業の進化につながると言えます。

一点目は電気自動車の普及です。

先日米国テスラ・モーターズが日本での高級電気自動車の納車を始めたという発表がされています。電気自動車はエンジン付きの自動車やハイブリッド車に比べて非常にシンプルな構造となっています。例えば先のテスラ・モーターズの高級スポーツ電気自動車「モデルS」のモーター回りの部品点数は約100個であり、エンジン部品の点数の1万~3万点に対して比べものにならない位シンプルな構造です。日経新聞によるとi-phoneの組立てを中国でやっている台湾の鴻海精密工業がテスラの組立てをやるという噂も流れていたようです。

このように電気自動車の普及は自動車産業の参入障壁を一気に低くするものです。

もう一点はボディーメーカーの存在です。ボディーメーカーは一般的にはOEMメーカーと呼ばれます。あまり知られていませんが、日本の自動車メーカーは数多くのOEMメーカーに生産を委託しています。OEMメーカーは設計の(一部を)担当しているケースとそうでないケースがあります。特にトヨタ系列のOEMメーカーはボディメーカーの数も多く、各ボディメーカー間で生産性を高める競争に数十年も前から置かれています。

つまり設計と生産などの摺合せは生産会社が設計会社と別会社であろうと、比較的スムーズに行えるような下地(仕組み)が既にできているのです。

1995年頃に私がある外資系コンサルティング会社にいた時に自動車業界向けのレポートを発表しました。そこでの分析はバブル経済崩壊後の自動車メーカーの収益と保有する工場の稼働率に強い相関が見られる、という内容でした。つまり自動車産業はバブル崩壊後装置産業化が進展している。その中で工場稼働率を上げるための混流生産や生産方式の採用が有効であり、また在庫を最適化するサプライチェーンマネジメントが収益向上には求められるというものでした。

このような点から現在は系列のボディメーカーに生産委託していたものをより混流生産などで優位な生産効率を持つ非系列会社に委託することは容易に考えられます。

このように自動車業界でも電子ハイテク業界と同様の水平分業、生産専門会社の発展という動きが進展する可能性は低くないのです。逆にグローバルでのこのような流れを見誤ると電子ハイテク産業同様に日本の自動車産業の競争力が低下し、産業全体が衰退するリスクを含んでいることもあり得るわけです。

今後はこのような事業モデルとの競争を想定した上で事業モデルを再構築していく必要があると言えます。

そう、アンドロイドが車を作り高生産性、低コストを実現している状況は既におこりつつあるのです。

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