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販管費+50%の壁/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2014年11月6日 4時23分

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純丘曜彰教授博士 / 大阪芸術大学

/昔と違って、市場が流動化している。そのために、およそ製作費の50%は、営業にかけないといけない。しかし、一人で150%ものことはできない。だからと言って、本業を人まかせにしたら、いったい何が本業なのか。/

 ジョニー・ディップ、最近の映画、やたらメイクが濃いでしょ。いや、ヒュー・ジャックマンやロバート・ダウニーJrでも同じ。後姿だけでもわかるような派手なコスチュームばかり。でも、あれ、じつは本人じゃないから。よほど顔がアップのシーンでもないかぎり、ボディダブルと呼ばれる代役を使っている。もともとは位置や照明の調整、アクションシーンのスタントなどのために、映画でボディダブルが使われるようになった。ところが、今日、ボディダブルをフル活用しないと、スケジュールが間に合わない。

 スケジュールと言っても撮影ではない。営業だ。昔は、映画会社は映画さえ作っていればよかった。あとは各国の配給会社がよろしく営業をやってくれた。ところが、いまは製作費の50%、つまり製作費が1億ドル、100億円なら5000万ドル、50億円を広告宣伝にかけないと映画が当たらない。極東の国のどうでもいい各局のワイドショーの、どうでもいいアナウンサーたちに、どうでもいい独占インタヴューを撮らせないといけない。そういう密着仕事の方こそ、本人でないとまずい。そのせいで、映画本体の方はボディダブルまかせ。

 小説家や漫画家でも同じ。昔は好き勝手に書いて納品すれば、そのまま先生様の玉稿で通った。しかし、昨今、書く前から編集部と細かな打ち合わせをしないといけない。そのうえ、書いた後にもかなりの量の直しが求められる。同じ週単位、月単位だと、仕事が回らない。それで、完全に担当編集者の言いなりになるか、さもなければ、著作者は編集部との調整交渉に50%の能力を割いて、著作の50%の方をアシスタントにやらせるかしか方法がなくなった。

 あなたが街のケーキ屋で、とても良い商品を作っているのに売れないなら、売る努力が足らない。製作にかける努力の、さらに50%増しで売る努力をしないといけない。昔なら、商店街で、そこに店を出していれば顧客はそれを選んでくれた。ところが、市場が大きくなり、顧客は車であちこちへ出かけ、さらには通販で遠くのものまで視野に入れるようになった。その中で生き残るには、あなたもまた、遠くの顧客まで視野にいれて、営業活動をしないといけない。

 しかし、そんな余力はない、そんなことをしたら、商品の製造が追いつかない、と、あなたは言う。でも、話は、映画や小説、漫画と同じ。営業の方は、あなたでないとできない。だから、いまの時代、製造の50%は、アルバイトに任せればいい。なんなら、2店舗にして、それぞれ100%をアルバイトにやらせて、あなたは2店舗の営業に専念してもいい。さらに支店をどんどん増やして、これらの支店の管理も別のだれかにやらせ、あなた自身はチェーン店の広告塔としてタレントになればいい。レストランでも、美容外科でも、みんなどこでもやっている手法じゃないか。いや、小説家や漫画家でも、そうやってプロダクションを大きくしてきたところは少なくないじゃないか。

 働いたら負け、というのは、本当だ。自分でやっていたら、どんなに努力して良いものを作っても、いまの時代は売れない。売ってナンボの商売としては、働くのはアルバイトや従業員、外注のゴーストライターにやらせ、自分はへらへらへろへろを愛想を振りまき、ひたすら外回りに専念した方がいい。それに、もちろん、作るのはアルバイトや従業員、ゴーストなんだから、簡単にできるように手順を変えないといけない。遠くの顧客まで宅配するとなれば、見栄えを保つため、怪しげな添加物なんかもやむをえないだろう。

 だがね、バカなアナウンサーのバカなインタヴューを受けて愛想笑いをする演技のために俳優になったのか。エセ文化人タレントになって有名芸能人たちとクイズ番組で同席するために小説や漫画を書いてきたのか。駅前の壁看板やテレビCM、安物の大量生産レトルト食品のパッケージに、でかい顔写真を出すために料理を学んできたのか。そんなことにうつつを抜かしていて、人まかせの肝心の商品の出来が落ちていって、それで、この競争の厳しい時代に、いつまでも仕事が続くと思うのか。

 人生は短い。余計なことに時間を費していたら、本業にかけられる生活は残らない。いや、そんなことを言ったって、いまの時代、こうしないと大きな仕事はできないんだ、と、言うかもしれない。でも、どんなに大きな仕事でも、自分の名前が載っているだけで、自分でやらないのだったら、それは自分の仕事じゃないんじゃないか。まして、本業を人まかせにして、そのせいで自分の評判まで落としたら、元も子もないんじゃないか。私なら、たとえいつまでも小さな商売に終始するとしても、広告に釣られて増えただけの一時の浮動客より、長年の地元の顧客の方を信じて、いま以上にさらに大切にしようと考えるけどね。



by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士

(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)

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