娘をやらん親はいらん/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2016年3月15日 6時0分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
いまだに使い方がわからないくせに、SNSとやらに登録だけはしている。と、思わぬ人から連絡が来たりすることもある。ずいぶん前の教え子だ。前に仲人を頼まれた。が、断った。それから音沙汰が無かったので、ずっと心配していた。
当時、彼には学生時代から付き合っていた彼女がいて、就職して何年目かというところで先方の親に挨拶に行ったそうだ。ところが、勤め先の将来性だのなんだの、いろいろ言われて、そもそも仲人も立てずにうんぬん、と文句たらたら。それで、後先になってしまいましたが、どうか先生、とのことだった。
話を聞いただけでも、面倒くさそうな親だ。ちょうど、ちょっとした大手企業を管理職まで勤め上げて定年退職になったばかりらしい。一人娘がかわいいのはわかるが、就職の面接でもあるまいに、娘が決めた相手にごちゃごちゃ言うとは、なんとも大人げない。で、彼女は? 仲人なら、それこそ二人で頼みに来るものだろう、と聞くと、それが、電話も出てくれないんですよ、とのこと(ちょうど携帯が普及し始めたころだった)。
ま、そういうことだよ、と言った。だけど、と彼は言う。いや、ちょうどいい機会じゃないか、断ったのは先方なんだから、後くされもあるまい。私なんかが、いまさら出て行って、どうにかなるとも思えないし、たとえいま、どうにかできたとしても、これから先、その父親はもちろん、彼女まで、事あるごとにその調子だぞ。止めとけ、止めとけ。
昨今、ただでさえ仕事に就くのが難しいのに、入ってからずっと一つ所にまじめに勤め続け、彼女のこともきちんと考えて、自分から挨拶に行くだけ、なかなかのやつ。一方、親がなんぼのものだか知らないが、娘はただの娘。それを引き受け、娘もまたその男とやっていこうと言っているのだから、相手がよほどの犯罪者や博打打、女誑しでもなければ、ふつつかな娘ですが、末永くよろしく、と、後は二人に任せればよいものを、いやいや、オレ様がじかに検分してやろう、などというのは、勘違いも甚だしい。
退職してしまった年金生活者など、世間では無も同然。むしろ、将来的にはいずれ病気だ介護だと、娘夫婦に世話になることばかり。せいぜい孫の面倒でもなんでも、できるうちになんでもやらしてもらえてこそ、老人の幸せ。最近は、婿や嫁に嫌われ、実家に寄り付かず、孫の顔を見ることもできないままの年寄も少なくない。
よほどのボンボンでもなければ、どのみち男なんて、若いときはみんな、まだぱっとしないもの。でも、そこからが、がんばりどころ。共働きを含め、ともに支え合い、助け合って、どうにかやりくりしていってこそ。最初からなんの苦労もせずに暮らせる甘い嫁ぎ先なんて、この世の中にそうそうあるわけがない。たとえあったとしても、若い夫婦が自分たち自身で掴み取った幸せでなければ、たいていはその後に転落してしまうだけ。
結局、あの後、彼の御両親が田舎から出てきて、先方にお詫びとお願いに伺ったが、家風が合わないとかなんとか、体よく言われて、やっぱり破談。しかし、その後、彼は会社の取引先の社長に気に入られ、事実上の入り婿。今では何人もの人を使う側。夫婦円満で、双方の家も仲が良く、子供たちもみな元気だそうだ。一方、彼女は、何度か見合いもしたらしいが、母親も亡くなり、以来、父親と二人暮らしで、地元の病院の送り迎えをしているのを見かけたとか。自分の思い上がりのせいで、娘が幸せになるせっかくの機会を潰したとあっては、死ぬまで悔いても悔いきれまい。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)
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