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ベンチャー企業がそっと消える理由/柳田 善弘

INSIGHT NOW! / 2016年3月17日 4時0分

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柳田 善弘 / 株式会社エデュテイメントプラネット

多くのベンチャー企業は人知れず消えている

爆発的成長をするベンチャー企業は耳目をひきますし、誰にも認知されないまま消えていくその他多くのベンチャー企業に興味を持つ人もいません。

結果的に、多くのベンチャー企業は爆発的成長をしていく印象を持ってしまう人もいるでしょう。

しかし、実際に爆発的成長をするベンチャー企業なんてごく一部です。

多くは吹けば飛ぶような存在ながら、とめどなく湧き出るリスクを絶妙なバランスでかいくぐりつつ、地道な試行錯誤を続けた結果として成長していくものです。

全てのリスクを理性的に避けたとしても、天災に近い不運で消えてしまう企業すらあります。
企業はどのようにして消えていくのか、考えていきましょう。


ベンチャー企業は競争に負けて消えるのではない

ベンチャー企業が成長する主な要因は、独自性の高い技術やノウハウを背景にした、魅力的な商品やサービスが主でしょう。一方、衰退する要因はというと競争に負けるというよりも内部から崩壊して自滅するケースの方がずっと多い印象です。

本稿ではベンチャー企業の内部がどのような段階を経ていくのかを、実務家のみなさんのうかがったお話から、以下の3つにまとめてみました。

  1. 一人ひとりが何らかの分野で成果を生める能力を持った「プロ集団」
  2. プロ集団ほどでなくても一定の能力があれば成果を生めるしくみを持った「機能別組織」
  3. メンバー一人ひとりが互いに力を発揮し成果を生める文化をもった「チーム」

なお、実態は個人事業主ともいえる一人起業もあるでしょうが、今回は検討の範囲外としています。
さらに、一定の成果を生むスキルを持たないまま、うっかり起業してしまった場合も結果は見えているので今回は範囲外としています。


プロ集団の長所と短所

複数人で起業をする場合、一人ひとりが自身の持ち場で成果を生むレストラン型と、一人ひとりが営業からサービス提供まで一貫してできる士業事務所型があります。

どちらも長所としては、メンバーのスキルの高さを信頼しているので、安心して自身の業務に当たることができ、高いスキルをさらに高めることができます。

過去の個々人の信頼から仕事を取ることもでき、最初から非常に高いパフォーマンスをあげることができます。

短所としては、特にレストラン型では換えがきかないほど高いスキルが差別化ポイントであるがゆえに、代替人員を見つけづらいところです。病気や事故に限らず、何らかのライフイベントでこれまで通りの働き方ができなくなると、運営が困難になるほどのダメージとなります。

士業事務所型の短所としては、自身が職人として最前線で働き続けなければならないという点があります。ただ、これはそれを望む人にとっては短所ではありません。

レストラン型で起こりうる誰かの業務が滞っても、他のメンバーが近しいもしくは同じ領域で高い専門性を持っているため、比較的サポートしあえる状況といえます。


機能別組織の長所と短所

「私たちは、このペースでずっと働き続けなければならないのだろうか」

「この働き方では、売上にも限界があるのでは・・・」

プロ集団がそう思い始めたら、機能別組織づくりをめざします。

機能別組織の長所は、プロ集団が作ったビジネスを、役割やタスクで分解し、ルールや業務標準を整備することで、そこまでスキルが高くない人たちでも成果を生みやすくなり、結果として売上を伸ばしやすくなることです。

もちろんプロ集団がめざす品質にはほど遠いのですが、量的対応ができるので、売上の上限も大きくなるでしょう。

短所は、まず機能別組織をつくること自体が成功の可能性が低く、高スキル人材が離れていく可能性がある、ということです。

前述の通り、多くのベンチャー企業は内部から崩壊していきますが、多くはこの機能別組織づくりのタイミングではないかと推察します。

まず、高スキル人材と低スキル人材が混ざると、業務の品質やスピードへの「当たり前感覚」がズレているので、コミュニケーションコストが膨大になります。コミュニケーションコストと書けば見た目はよいですが、膨大な時間とエネルギーを消費し、ストレスや軋轢、機会損失を生みます。

これには双方の歩み寄りが必要なのでしょうが、そもそも感覚がズレているということを認識することができないケースも多いのが実際でしょう。

そこで、ルールや業務標準をつくることになるのですが、「自身にルールをつくる時間がない」「メンバーがルールをつくっても守らない」という現実が待っています。

実際には、メンバーが「そもそもルールを理解できていない」「理解しているがスキルがなくて実現できない」という背景があるのかもしれませんが、そこは、メンバーにもプライドがあるので認めづらいところです。
「実現が不可能なルール」という烙印を押されます。(理由はともあれ、実現不可能とするならそれも正ですが)

そんなこんなでプロ集団の一員だった高スキル人材には「低スキル人材の相手をするのが面倒」「忙しくなったのに彼らの人件費のおかげで報酬はむしろ下がった・・・」という不満を抱えるようになり、次第に去っていきます。

まだ機能別組織が回っていない状況で、一定以上の高スキル人材が去ってしまったベンチャー企業では、業務品質の維持も難しく、また人件費を賄う売上も確保できません。そっと消えていくことになります。

これは決して大きい組織の話だけでなく、2〜5人程度の規模でも、十分に起こり得ることです。


チームの長所と短所

プロ集団では難しかった規模拡大をめざした機能別組織ですが、役割分担とルール整備だけではうまく動かなくなってきます。

なぜならば、プロ集団を組織化する場合、その役割やルールはプロ集団の成功モデルをもとにしているケースがほとんどですが、いつまでも過去の成功モデルが有効であるとは限らないからです。

その対応として、チームづくりがあります。

チームの長所は、現場のメンバーが個々人の仕事をルール通りに完遂するだけでなく、自発的に相互に働きかけ、お客様満足の向上等の共通の目標達成をめざしていけることです。

例えるならば、サッカーの試合で、選手一人ひとりがルールを守り、それぞれの役割を果たしながらも、声をかけあい身体を動かすことで、勝利という目的に向かって一丸となるイメージです。

さて、チームの短所ですが、まず組織同様、チームづくり自体が成功するとは限らない、ということです。

チームビルディングそのものについては、多くの専門家の方々が語っているのでここで多くは語りません。
あえて私見を書くならば、組織はルール(含:罰則)によってつくることができる反面、チームは「自分たちがチームであろうという意志」をメンバーが持つことがとても重要であり、しかもそれは外部から強制することが難しいと考えています。

チームを機能させる方法の1つが「理念」「ビジョン」「ミッション」といったものの設定と浸透でしょう。ただ、チームの短所の1つとして、これらに共感できないメンバーは居心地が悪く、結果的に去って行く可能性がある、ということも挙げられます。

公式試合の優勝をめざすサッカーチームに、緩くサッカーを楽しみたいメンバーが一人いても、その人は居心地も悪く、いずれ去ることになるでしょう。これは、緩くサッカーを楽しみたいチームに、優勝をめざしたいメンバーが一人いても同じことが起こりえます。

ただ、メンバーの多様性の尊重もケースバイケースであり、チームがチームとしてあるためには、めざすところが異なるメンバーが去ることは短所とは言い切れないかもしれません。


3つの段階は併存できるもの

これまで、「プロ集団」「機能別組織」「チーム」について3段階として考えてきましたが、これらは段階の要素を持ちながらも併存できるものだと考えられます。

むしろ、初期からチーム力のあるプロ集団として立ち上げ、チーム力を生む機能別組織へ移行できたベンチャー企業こそが飛躍的な成長を遂げているのかもしれません。

一方、どこかの段階に長くとどまっている組織は、慣性の法則で誰ともなくそこに居続けたいという力学が働くので、相応の努力を持って次の段階に進めなければならないかもしれません。

以上、実務家の視点というよりも、私見に近い部分も多分にあるかとは思いますが、みなさんのご参考になる箇所があれば幸いです。

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