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「"明るい人柄"を採用しない」リクルート出身 創業20年で時価総額1000億円のネット通販社長の目利き術

プレジデントオンライン / 2024年5月9日 7時15分

北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿 2002年「株式会社北の達人コーポレーション」設立。独自のWebマーケティングを強みとして東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。著書に『チームX』(ダイヤモンド社)など。

■部下の報連相はアテにならない理由

私が2002年に設立した北の達人コーポレーションは、自社ブランドの化粧品や健康食品を通信販売する会社です。12年には株式を上場し、16年以降の4年間で売り上げが約5倍、営業利益が約7倍になるまで急成長を遂げました。ところが、20年ごろ、成長がストップしてしまいました。

通信販売の売り上げは、広告のクオリティに大きく左右されます。当社はこだわりの商品開発とともに、Webマーケティングを武器に業績を伸ばしてきました。その効率化を追求するあまり、成功事例を踏襲した広告づくりが多くなっていたのです。当社だけではなく、Webマーケティング業界全体が同じ状況に陥り、ネット上には似たような広告ばかりが溢れました。どんどん広告への反応が落ちて、トップを走っていた当社はいち早く成長が止まってしまいました。

Webマーケティングは比較的個人のスキルに依存している業界です。急成長を遂げてきた当社も、実態は個々のセンスに任せた野武士集団でした。私自身がプレーヤーとして現場に入れば一定の成果は上がると考えましたが、一人でできることには限界があります。このままでは、業界とともに沈んでしまう――そこで、「組織として成果を上げる」ための改革に本格的に取り組みはじめました。

■全部任せてみて、どこまでできるのかチェックします

とはいえ、私自身のスタンスが大きく変わったわけではありません。以前から私は、基本的にすべての仕事をいったんはメンバーに任せることにしています。全部任せて、どこまでできるかを確認して、その人がやり切れなかった部分を私が引き取ります。もちろん、何をどこまで任せるかは、メンバーの適性や能力によって変わります。既成の枠組みにとらわれずに新しいことをやれる人、ブレない信念を持ってやり通す人。おもに2人の「リーダータイプ」の社員に直接私のノウハウを教え、リーダーを任せていきました。

私を含め、オーナー社長の多くは「自分がいなくても回る組織」をつくろうとしています。私は、会社の株式の過半数を保有する株主でもあります。私より優秀な人が成果を出してくれるのであれば、株主としてはそのほうがうれしい。だからこそ、一度は丸投げして、メンバーがどこまでできるかを確認しながら仕事を任せていくのです。

ただし、丸投げしてほったらかしにするとうまくいきません。問題が起きていないか常にチェックしなければなりません。「何か問題があったら報告して」という姿勢は、リーダーとして間違っています。メンバーの中には自分の失敗をごまかそうとして報告しない人もいますし、そもそも問題が発生していることに気づかないケースも多いからです。部下は、問題を発見できないからこそ部下であるともいえます。

メンバーに任せた仕事がうまくいっているかどうかは、本人からの報告に頼らずとも、KPI(重要目標達成指標)を見ればすぐにわかります。組織として成果を上げるためには、正しいKPIを設定することが最も重要だったのです。

Webマーケティングの部署では、チームの目標を個人に落とし込んで、メンバー一人一人にKPIを設定しています。当社では、私を含めたリーダーたちで話し合い、そのKPIを頻繁に変更しています。

会議では、そのKPI設定のもとでメンバーが「どんなズルができるか」を必ず確認します。KPIが間違っていれば、会社はどんどん間違った方向に進みますから、正しい設定になるまで改良を続けなければいけません。個人のKPIは部分最適であり、全体最適と相反する可能性があるからです。

たとえば、新規の集客人数をKPIとして設定した場合、「初回半額キャンペーン」を実施すれば、同じCPO(顧客獲得コスト)でより多くの人を集めることができます。集客人数という個人のKPIは達成できますが、その分、売り上げや利益は減ってしまいます。そこで、集客人数をKPIにする場合には条件をつけます。一人のお客様から獲得できる1年間のLTV(顧客生涯価値)から利益を差し引いた金額をCPOの上限にしています。

試行錯誤のうえに、私たちがようやく正しいKPIを設定できるようになったのは約2年前のことです。それまでは、メンバーから「順調です」という報告が上がっていたにもかかわらず、全体の状況は悪化する一方でした。仕事を任せたあと、状況がどうなっているかを確認できる仕組みがなければ、たとえ失敗に突き進んでいたとしても気づくことができないのです。

■20代のリーダーが活躍できるワケ

チーム全体で成果を上げるためには、メンバーが「頑張りさえすれば成果が出せる」仕組みを整えることが重要です。それがなければメンバーはやる気になりません。反対に、仕組みさえあれば、ほとんどの人は放っておいても頑張ってくれるものです。

リーダーの役割は「人の管理」ではなく「仕事の管理」です。マネジメントとは、人に働きかけることではありません。仕事の管理をやり尽くしたうえでなければ、人に対して働きかけをしても意味がないと思っています。

マネジメントとは何か?

歴史の古い企業の場合、長年の経験の中で仕事を管理する方法は固まっていますし、評価の指標も決まっている場合が多いでしょう。ビジネスモデルが大きく変わらなければ、仕事のやり方や仕組みを変える必要がありません。あとは「社員にやる気を出してもらう」くらいしか、差別化要素がありません。だから「人の管理」、つまり、人に働きかけをしようとするのです。

当社のようにベンチャー企業の場合は、そもそも仕事のやり方を変えていかなければいけません。人に働きかける前にやるべきことがたくさんあるのです。売れる商品をきっちりと定義し、その商品が売れるための仕組みを整え、どうすれば売れるのかを社員に教える。そこで売れなかったら初めて人に働きかけるのです。「仕事の管理」をせずに「人の管理」をしようとすれば、パワハラにもなりかねません。

現在、社内で活躍してくれているリーダーたちは25、26歳前後です。チームにはもちろん年上のメンバーもいます。若い社員にリーダーを任せることができるのは、彼らの役割を「仕事の管理」だとはっきり定義づけているからです。リーダーはチームの目標に対する作戦を立てて、進捗状況を管理するのが仕事です。メンバーが作戦と違う動きをしているとき、軌道修正を行う役割もリーダーが担います。

■2週間に1回は新人と面談する理由

当社には「売り上げが伸びていればいい」という考え方はありません。売り上げを最大化できても、利益が減るような提案が社員から出てくることもありません。全社員に全体最適を考えてもらえるように、いくつもの工夫をしています。私が書籍を出版しているのもその工夫の一つです。おもに新入社員に向けて、当社の共通言語や考え方を習得してもらうために書いています。

新人教育の担当者はいますが、任せっぱなしにはしません。入社してしばらくの間は、2週間に1回程度、私が直接面談をしています。当社のようにそれほど規模が大きくない会社の場合、同じ職種の先輩よりも素養の高い新人が入社してくることも珍しくありません。新人が先輩の指導に疑問を持っているとき、私や役員がその事態を発見し、フォローできるようにしています。

同時に、面談の前には新人と関わっている先輩たちからも状況をヒアリングします。新人の自己評価が10段階で8だとしても、先輩から見れば2かもしれません。その場合は、期待されている仕事をまったく理解できていない可能性があります。本人からの発信を鵜呑みにしないことが肝心です。

■採用は明るい人より向いている人を

チームづくりのためには、採用も重要です。面接中心の選考では「明るい人柄」の人を採用したくなる傾向にありますが、明るいかどうかは職務に関係ないことがほとんどです。最近は、その職種に向いている人、最低限のセンスのある人を見極めるための採用テストをより重視するようにしています。

最低限のセンスを見抜くといっても、容易ではありません。「文章力」を例にあげると、当社が求めるスキルは3種類あります。お客様とやりとりをするカスタマー部門では、わかりやすく説明する文章が書ける人が適しています。一方で、広告のライティングを担当する人は、購買意欲を高める文章を書けなければなりません。さらにニュースレターをつくる場合には、お客様に共感してもらえる文章を書く力が求められます。

北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿

そこで、たとえばカスタマー部門の採用テストでは、こちらのミスが2つ重なった事態を想定し、お客様へのお詫びのメールを書いてもらいます。すると単にお詫びをするだけの人もいれば、一つ一つを説明したうえでお詫びをする人もいます。こうしたテストで、その職種に向いた人を採用することができるのです。

一方で、セールスライティングのメンバーを募集するテストとして、「あなたが好きな飲食店のメニューを薦める文章を書いてください」というお題を出したことがあります。見事な文章を書いた人がいたので採用しましたが、実際に仕事をしてもらうと、売れる文章がまったく書けませんでした。なぜだろうかと考えてみると、実は、どんな人でも自分の興味や関心があるものについては上手に書けるということに気づきました。プロはどんな商品についても書けなければいけません。そこで、その後は商品を指定して、「この商品を売るための文章を書いてください」といったテストに変えました。入社後にどれくらい活躍しているかを見ながら、センスを見抜くための採用テストを常につくり変えています。

こうした採用テストをクリアした人なら、入社後、頑張りに応じて当たり前のように成果を上げることができる――そんな仕組みをつくることがマネジメント層の役割です。

私にとっては創業当時からの悲願であったチーム変革を達成し、23年半ばに業績のV字回復を遂げることができました。将来的には、いま当社で活躍してくれている20代のリーダーたちに、私が担っている役割を引き継いでもらいたいと思っています。優秀な人材に会社を任せられるようになり、私の存在価値がなくなることが最終的な目標です。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。

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木下 勝寿(きのした・かつひさ)
北の達人コーポレーション社長
1968年、神戸生まれ。株式会社エフエム・ノースウェーブ取締役会長。リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、北海道・シー・オー・ジェイピーを設立(2009年に北の達人コーポレーションに商号変更)。史上初の4年連続上場。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113.7倍、在任期間8.4年)。著書に『売上最小化、利益最大化の法則 利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)など。

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(北の達人コーポレーション社長 木下 勝寿 構成=向山勇 撮影=市来朋久)

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