映画『ルックバック』成功から浮かび上がる、集英社の思惑とは
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月23日 8時10分
このルックバックの展開で特徴的といえる点は下記の3点である
1. 「日常消費」と「非日常消費」の連携
2. 映画館での鑑賞を促進する特典
3. 読み切り作品のアニメ化と展開方法
まず1つ目について。確固たる人気を獲得している漫画家による150ページ近くに及ぶ長編読み切り作品が、期間限定とはいえ無料で公開されたこと自体が珍しいことである。しかし注目すべきは、「日常消費」にあたるコミックアプリの無料公開から、「非日常消費」の特性を持つ映画館上映へうまくつなげたことだ。
漫画・アニメ共に抱えている課題であるが、日常的にアクセスできるチャネルからは大きな収益を見込みにくい。一方で、非日常消費のチャネルのみでは、知名度を上げることに課題を抱える。そのため、日常消費のチャネルで知名度を獲得し、非日常消費へ誘導することが、コンテンツビジネスを成長させるための方策となる。その非日常消費への誘導促進策として導入されたのが2つ目の特典だ。
本作は映画館への入場特典として、原作ネームの全ページを収録した「Original Storyboard」を配布している。原作漫画のネーム全ページ分が特典となる例は珍しいといえる。これは、製作委員会に集英社自らが参画しているからこそ実現した特典だろう。
原作ファン、そして藤本タツキ氏のファンであれば是が非でも手に入れたい一品であり、多くの人が映画館へ足を向ける要因となったことは間違いない。
●集英社の新たな試み
もう1つの特徴が、3つ目に挙げた「読み切り作品のアニメ化と展開方法」であり、本稿で特に着目したい点だ。とはいえ、「読み切り作品のアニメ化」自体は以前から行われており、特段珍しいことではない。
これまでしばしば行われてきた、読み切り作品のアニメ化は、
・同じ作者の別作品によるTV放送枠を用いる
・DVDとして単行本の特典に加える
などの形で展開されていた。これらに共通することは、アニメ化された読み切り作品は“従”であり“主”ではなかったことである。
しかし『ルックバック』の例はそれら従来のやり方とは明確に異なる。つまり“主”であり、それ単体で人を集められるコンテンツとして成立しているのだ。
なお『ルックバック』よりも一足先に、2024年1月に『ONE PIECE』の作者、尾田栄一郎氏の短編漫画『MONSTERS』がアニメ化され、Netflix・Amazon Prime Videoで配信されている。
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