労働者のスタンダードは「元気でバリバリ働ける人」……本当にそれでいいの?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年10月1日 6時0分
女性をはじめとした、出産・育児・介護・看護のために“働き手候補者”にならざるを得ない人たちを労働市場に呼び寄せるには、ケア労働を市場労働と同等評価し、男性の育児・家事時間を増やすしかない。
日本同様「性役割」が根深いドイツでは、労働時間を徹底的に管理することで「男性も仕事ばかりしないで、さっさと家に帰って家事育児をしなさい!」という社会をつくってきました。
「1日10時間以上働くこと」は原則禁止し、抜き打ちの監査が入るほど厳重に徹底され、残業超過が発覚した場合には、雇用者(もしくは管理職)に最高1万5000ユーロ(約180万円)の過料もしくは1年以下の懲役という罰則が課せられました。有給休暇も年間で最低24日間と定め、100%近い消化率。さらに、残業した分は「労働時間口座」に貯蓄し、後日休暇などで相殺し、自分の時間に転換することもできます。
こうして市場労働の時間を制限する一方で、2017年にドイツ政府は「ケア共同モデル」の方針を発表。従来の専業主婦モデルから脱し、男女双方がケアを共同で担う新しい家族像を提唱しました。
日本は「バリバリ元気な男性の働き方」がスタンダードのまま、女性を労働市場に参入させてきました。しかし、時代は変わり、共働き夫婦がスタンダードです。ならば、男性が家事育児をすることも当たり前にする必要がある。
そのためには政府や企業が、市場労働だけじゃなくケア労働を評価するしかないのです。
人が持つ「仕事」「家庭」「健康」の3つの幸せのボールを、どれも落とすことなくジャグリングのように回し続けられる働き方、働かせ方が今こそ求められています。それを実現してこそ、全てのメンバーが生き生きと働ける職場といえるでしょう。
●河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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