シヤチハタが「釣り具」に「ペット用品」? “脱ハンコ”商品ぞくぞく、背景に危機感
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月30日 8時15分
「昔から何かをしろと言うことがなかった父なのですが、このときは『もし入社するつもりなら、今から起こることをしっかり見た方が良い』と言ってきたのです。当時は、事務機器メーカーのプラス社が、『アスクル』ブランドで流通も担い始めていたタイミングでした。父がそこまで言うならよっぽどだろうと考えて、入社を決意しました」
入社当時から持っていたのが、ハンコ市場の先行きに対する危機感だ。
「当社は大企業ではありませんが、市場環境としては恵まれており、新商品を出せば取りあえず、店頭に並べてもらえるポジションにはいます。また、営業で訪問したり電話したりしたときに社名を出せば、話も聞いてもらえます。だからこそ、そこにあぐらをかかず常に新たな発想を持ち、今までの正しさから脱却する必要があると考えていました」
こうした考えを反映した取り組みが「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」。2024年で17回目を迎えた、商品化を念頭に置いたデザインコンペだ。もともとはプロダクトデザイナーが制作したオブジェを表彰する催しだったが、これを「もっと社業に結び付けたい」という舟橋社長の思いから、1999年にリニューアルした“肝いり”の取り組みだ。
●リップ型ハンコにペットの足型 斬新な商品を続々投入するワケ
コンペからはいくつもの商品が誕生している。例えば、2020年7月に同社オンラインストアでテスト販売を開始した「わたしのいろ」はその一つだ。従来の朱肉といえば基本的に「朱」を中心に単色だが、わたしのいろは複数の色が混ざった朱肉である点が特徴だ。
朱肉を付ける場所によって印影の色味が変わり、これまでのイメージを大きく覆すことから話題を呼んだ。これまでいくつものバリエーションを発売しており、新作が出るたびに購入しているヘビーなファンもいるとか。その中には弁護士もおり「裁判所の公式文書に使っていただいているそうです。朱肉といえど、朱色じゃなくても良い、ハンコへの固定観念を破壊するきっかけになった商品です」と舟橋社長はうれしそうに話す。
コンペ発の商品以外でも、直近はB2C商品への注力が目立つ。例えば、釣り具のルアーを着色するペンや、ペット用品なども扱っている。
その背景にはリーマンショック期に得た気付きがある。社長就任後に起こったリーマンショックで、B2C事業が強い企業はそこまで大きな影響を受けていなかった。そこで舟橋社長は、B2Bメインで色も地味なものが多かった自社商品のラインアップ拡充が必要だと考えていたという。
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