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集英社、講談社、小学館など、マンガ出版社の多くが非上場なワケ

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年10月20日 9時10分

 ただ、その中でも、マンガ出版事業を知らない株主からものを言われない組織であることが大きいと思われるのです。再現性のない、およそ現在の経営的観点からは遠い深淵なる「漫画家と編集者の関係性」との向き合い方や、長い時間をかけて、ゴリゴリの経済合理性とは離れた、じっくりとした組織マネジメントを行っていけるのは、非上場企業であるからできる、世間と経営の隔絶が大きな防壁となっているのです。

 そうした環境下で大事な要素は、編集部組織の要職を占める人材が、部課長級から事業部責任者の取締役まで、漫画のつくり方に精通し、漫画家との向き合い方という意味で、百戦錬磨で十分に経験を積んでいる組織から、大ヒット作が産まれていることです。

 そうした人事が編集部組織を支えており、長期的判断を是とする非上場企業の強い点です。もちろん、それ以外のかたちで組織ができることは考えられますし、そうした挑戦は尊いと思いますが、少なくとも現在までの大ヒット作品の苗床はそうなっています。

 ここまで長々と述べてきましたが、なにせマンガづくりというものは、工業製品のように製作工程に再現性のある、大量生産が効くものではありません。一つひとつの作品づくりに、漫画家のえずくような苦労の連続があり、それを最大限支えようとする編集部のあり方があります。

●重要なのは人

 まず死力を振り絞るのは漫画家です。そこに報いなかったり、あっさり裏切ったりすることを繰り返す組織は、作家の信頼を失い、作家だまりを構成することができませんし、そこに働く編集者の中でも、特に能力の高い人が力を発揮できず、場合によっては転職や不本意な異動などで結果を出せないことになります。

 そのうえで、会社組織側の話に限ると、そうした出版社・編集部側の、およそ一般的なビジネス組織ではなかなか考えにくい、非連続で非論理的な、一人ひとりの作家ごとに変わる対応があって、大ヒット作家が育ちます。そして、そうした対応をし続けることを維持できた会社だけが、継続的に大ヒット作品をつくっています。

 もともと、上場を狙うITベンチャーや、グローバル大手企業にいた私にとって、この摂理の発見はものすごく新鮮でした。なにせ、普通のビジネス書や、一般に言われるビジネスの方法論が、マンガの制作の現場には全く通用しないのです。

 むしろ、そうした絶妙なバランスを保つ現場を維持することが、大ヒット作品をつくるための基礎となっています。そうした仕組みを再現性のある形で言語化しようにも、究極的には「重要なのは人です」くらいのことしか言えないのです。一般的なビジネスの観点で言えば、恐ろしいことです。だから面白いのです。

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