熊本の廃校が「世界最先端のビジネススクール」に 異色スタートアップの、故郷への思いと緻密な戦略
ITmedia ビジネスオンライン / 2025年1月5日 8時10分
だが廃校の取得は決して平たんな道のりではなかった。当初は賃貸を想定していた中原氏だが、13校もの廃校を抱える市側から買い取り前提での話が進む。数千万円規模の取得費用が必要と分かり、借り入れなども考慮し、2022年7月にやまがBASE株式会社を設立した。
2023年1月から交付金の申請を開始し、プロポーザル型の公募への応募、市議会での承認、地域住民への説明など、一つ一つのステップを丁寧に進めた。同年7月に廃校の取得が実現し、10月には改修工事に着工。2024年4月のオープンに至った。「準備期間は長かったものの、取得が決まってからの動きは急ピッチでした」と中原氏は振り返る。
●“MBAの民主化”と徹底的なローコスト経営
「そもそも、利用客が来る見込みはあったのか」と問うと「施設利用者がいなくても成立する仕組みを最初から作ろうと考えていました」と中原氏は冷静に答えた。
その中核となるのが、月額9900円から始まる会員制コミュニティー「bY」(ビーワイ)だ。コワーキングスペースやラウンジの利用権に加え、オンラインで世界水準の経営学を学べるという異色のサービスだ。中原氏自身のハーバードMBAでの学びを、より手軽な形で提供する。
「海外のMBA取得には、2年間で最大32万ドル、およそ5000万円近くの費用が必要です」(中原氏)。そんな高額な教育機会を、月額1万円程度で提供する“MBAの民主化”に挑戦するというわけだ。「150人の会員がいれば、施設は維持できます」と言い切る中原氏。現在の会員数は30人ほどだが、法人会員の開拓も始まり、着実に手応えを感じているという。
施設運営面でも徹底的なローコスト化を図る。24時間365日の利用を可能にするスマートロックを導入し、常駐スタッフを置かない仕組みを構築した。必要最小限のスタッフは、「特定地域づくり事業協同組合」制度を活用した「YAMAGA BASE事業協同組合」から派遣する。U・I・Jターンの若者を雇用し、温泉施設やワイナリーなど地域の他施設にも派遣することで、人件費の平準化も実現している。
●開業8カ月で来場2万人見込み 想定外の広がり見せる利用実態
2024年4月のオープンから約8カ月が経過するなか、YAMAGA BASEの来場者数は年間2万人を見込むペースで推移している。「積極的な営業活動はできていないが、口コミで広がり、多様なユースケースが生まれている」と中原氏は手応えを語る。
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