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「研究費11億円以上の不正使用」「論文4本の捏造」――京大の霊長類研究所が“解体”されたワケ 元教授らが論文発表

ITmedia NEWS / 2024年5月10日 8時5分

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現存する公式Webサイトから引用

 京都大学霊長類研究所(霊長研)に所属していた研究者らが発表した論文「霊長類研究所解体の経緯を考える」は、国内有数の研究拠点であった霊長研が2021年度末に事実上解体されるに至った経緯を、裁判記録や公的資料を精査して分析した報告書である。

 京都大学の附置研究所である霊長研は、1967年に愛知県犬山市に設立され、1975年に完成した。野外研究と実験室研究を架橋する学際的なアプローチを推進し、さまざまな画期的成果をあげてきた。中でも飼育チンパンジーを対象とした研究は高い知名度を誇っていた。この分野のリーダーであるA教授とその研究グループは、巨額の研究資金を獲得し、最先端の研究設備を整えるとともに、国際的な人材育成・交流を推進していた。

 しかし、大型研究プロジェクトを推進する過程で「研究資金の不正使用」と、別の教授による「論文の捏造」が発覚。21年10月、京都大学の総長は、これらの不正行為を見逃した霊長研全体の責任を問い、研究所の改編を決定した。

 実験室研究の教員は新設のセンターに集約され、野外研究の教員は学内の関連部局に分散された。不正事件に直接関わった部門は廃止となり、教員の補充人事も凍結。この措置により多数のポストが消滅し、霊長研は実質的に解体されたのである。

●研究費の不正使用は11億円超に

 A教授を中心とする研究グループは、10~15年度にかけて、総額17億円を超える大規模な研究費を獲得し、認知研究のための飼育チンパンジー用の大型ケージの建設を計画していた。

 11年5月から、大型檻の建設業者を選定する入札が4回行われた。入札ではX社やY社が落札。しかし、Y社に関してはA教授とB准教授(のちに教授)から予算額を事前に知らされていたにもかかわらず、赤字承知で応札し、工事を行った。その結果、Y社の工事した3件の合計落札額2億9900万円に対して、受注額の2~3倍の工事をしたことになり、Y社は合計4億9900万円の赤字を抱えることになった。

 B准教授は、後の工事で埋め合わせをするからと約束し、予算を超える工事をY社に要求していた。しかし、超過費用の埋め合わせはわずかしか実行されず、A教授とB准教授は研究費の不正経理を34件も繰り返した。例えば、1つの工事に2回の発注、購入物品を別の目的に使用、架空取引、談合、入札妨害などである。

 Y社のZ社長は、A教授とB准教授に赤字の補填を懇願したが、ごく一部しか実行されず、やがて連絡を打ち切られた。15年、Z社長は京都大学とA教授、B准教授を訴えたが、A教授とB准教授は「約束した覚えはない」と主張し、裁判所は京都大学側に賠償の責任はないと判断した。

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