有名コンサルでの業務経験が裏目に──上場AIスタートアップCEOに聞く、創業の辛酸
ITmedia NEWS / 2024年11月19日 18時15分
「クオリティーの高い提案を出せば受注できると思っていた。しかし、現実はそう単純ではなかった」──オーダーメイドAI開発とコンサルティングを融合させた「カスタムAIソリューション事業」を手掛けるLaboro.AI(東京都中央区)の椎橋徹夫CEOは、創業時の苦い経験をこう振り返る。
テキサス大学で数学と物理を学び、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)では最年少でプリンシパルに就任。その後、東京大学松尾研究室でAIの企業連携に従事するなど、卓越したキャリアを積んできた椎橋CEOは、2016年にLaboro.AIを創業。しかし、華々しい経歴を誇る椎橋CEOも、スタートアップの世界では全く異なる現実に直面することになる。
Laboro.AIは23年7月に東証グロース市場に上場を果たしたが、その道のりは平たんではなかった。「優れた技術があっても、大企業との取引には想像以上の複雑さがありました」と椎橋CEOは当時を振り返る。
開発チームと営業チームの連携不足、そして何より創業者自身が市場と向き合う重要性──。これらの課題に直面しながら、短期的な成果と長期的なビジョンの両立に苦心した経験は、現在の同社の成長戦略にも深く反映されているという。スタートアップならではの試行錯誤と、そこから得られた教訓は、多くのテクノロジー企業の挑戦にも示唆を与えそうだ。
●B2B営業の複雑性 コンサル経験が裏目に出たわな
「不確実性を甘く見ていた。予測できないこと、コントロールできないことがたくさんあった」。Laboro.AI創業者の椎橋CEOは、コンサルタント時代の経験が、むしろ足かせとなった状況をこう振り返る。
16年の創業から半年以上、立てた計画を一度も達成できなかったという。大手コンサルティングファームで培った経験を生かし、徹底的な分析に基づく事業計画を立案した。売上計画をExcelで緻密にモデル化し、1日あたりの商談件数、受注確率、平均単価から、月次・年次の売上予測まで、全て計算し尽くした。
しかし現実は、そんな机上の計算を簡単に打ち砕いた。初月こそ既存の関係先からの受注があったものの、その案件すら織り込み済みの計画には届かなかった。2カ月目以降はもくろみが大きく外れ始め、その後も半年以上にわたって計画未達が続いた。
同社は当時、2つの方向性を模索していた。一つは企業向けのAIプロジェクト、もう一つはプロダクト展開だ。特に後者では、2016年の第一次チャットbotブームを捉え、野心的な取り組みを開始。強化学習を使った対話システムの開発に着手した。現在のChatGPTのような対話型AIが当たり前になっている中、当時としては画期的な試みだった。AIが能動的にユーザーに話しかけ、セールスまで行うチャットbotを構想していたのだ。
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