ドラッグ、大量殺人、そして反戦……ヤバすぎるスペイン・フランス合作のアニメ映画「ユニコーン・ウォーズ」レビュー
ねとらぼ / 2024年6月2日 19時30分
「かわいい見た目に反して描写は遠慮知らず」というのが、本作のわかりやすい魅力だろう。
●主人公がカス(そして悲しい)
そうした描写はただ露悪的なだけではなく、やはりメインである憎しみと戦争による悲劇の物語と密接に絡み合っている。そして、主人公が「新兵訓練所で屈辱的な特訓の日々を過ごす青年」であり、そのせいもあって双子の兄にずっとひどい言動をしている、というよりも性格がカスそのものなのも、作品には重要だった。
何しろこいつ、器がとにかく小さい。仲間には見た目の美しさを見せびらかしているが、毎日化粧で隠していることを見抜かれている。弓矢の腕前が2番手だと言われれば、露骨に機嫌を悪くする。さらには普段から暴力を振るうことにもお構いなし。最悪なのが、兄がおねしょをした(前後の描写からして実際におねしょをしたのは主人公のほうだろう)時のとある対応で、誰もが主人公のことをいい意味で嫌いになるだろう。
だが、彼の幼少期の出来事からは、「こうなってしまった」理由もつぶさに提示されており、その「戦争ではない悲劇」もまた苛烈なものだった。だからと言って誰かを傷つけていい理由にはならないと、あらためて主人公に怒りも覚えるのだが、同時に切なくもなってしまう。「もう少しだけでも別の考え方ができ、他の選択肢が取れたら、こうはならなかったのに……」と。
また、主人公は両親が双子の兄へ自分よりも愛情を与えていたと思い込み、嫉妬心を募らせているのだが、客観的には彼もまた両親や兄から愛されていたことは明白だ。そのことに彼が気づいていないことも、また悲しい。
そんなふうに身勝手で、愚かな憎しみを家族に募らせている主人公は、「聖戦」と称する戦争に参加し、さらに他人を傷つけ、殺すことを「正当化」していく。その先にさらなる悲劇が待ち受けているのは明白なのだが、それでもなお、彼に「人間性」が残されていたことを示す描写もわずかにあり、その人間性をも戦争が塗りつぶしてしまうことに、筆者は涙したのだ。
●現実と地続きの物語
アルベルト・バスケス監督は本作を制作するにあたり、「地獄の黙示録」や「プラトーン」などの戦争の悲惨さを描いた映画、それから「バンビ」を意識したとも語っている。
なるほど、確かに序盤の「戻ってこない部隊を探しに行く」流れは戦争映画としてはスタンダードであるし、森の中にいるかわいいキャラクター描写はディズニー作品を連想する(ただしそのかわいいキャラはおおむね血を撒き散らして死ぬ)。とある恐るべき存在の造形や、そもそもの自然に住む者たちとの戦いから「もののけ姫」を連想する方も多いだろう。
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