[西村健]【東京都の景観は誰のもの?②】 ~東京都長期ビジョンを読み解く!その9~
Japan In-depth / 2015年3月5日 11時30分
東京は美しいか。都民にとって満足できる景観か。愛情を注げる都市か。我々の美意識や感性が問われることはなかなかない。たとえば「東京の緑・景観・屋外広告物に関する世論調査」という調査が東京都生活文化局によって平成25年に実施されている。東京の緑が以前に比べてどのようになったと感じるか、東京を代表する景観として後世に伝えていきたいと思うものは何か、東京の都市景観を守り育てるために東京都が今後も積極的に取り組むべき重要な施策についてなどの質問がされているものの、冒頭に述べたような本質をつくような質問はされていない。東京の景観は変貌し、変化のスピードは早い。個々人のノスタルジーは圧倒的な資本主義経済によって蹴散らされる。しかし、景観をコントロールしているものがある。それは「東京都景観計画」だ。19年に施行され、23年に改正されている。この冊子、よくできた文章であるが、なんとも180ページにもなる。
これを見ると、東京都の取組として電線の地中化や景観保全に向けて様々な活動をしていることが分かる。地域ごとにルールを定めていて、読み応えのあるものだ。都庁の職員の方の努力と頑張りにはリスペクトしたくなる。
また、「戦後の急速な都市化を受けて、景観資源が失われてきた」「かつては雑木林とそれに囲われた畑が広がる風景が多く見られたが、現在、宅地化の進行とともに雑木林や畑、崖線の緑が失われつつある」との認識には共感を覚える都民も多いだろう。
しかし、だ。「首都にふさわしい風格のある街並みを形成」と謳う計画にはふさわしさとは何か、風格とは何か、どういったものかが定義されていない。景観計画はもちろん、東京五輪に向けた長期ビジョンにもその点が欠けている。
長期ビジョンにおいて景観が問われないなんてありうるのか。都民は言いたいことは山ほどあろう。景観トークなんて都政においてもっとも盛り上がるネタでしょう。あの町いいよねとか、汐留のビル群がヒートアイランドに貢献しているようだよとか、代官山は憧れるよねとか、神戸のほうがめちゃええねんとか、やっぱ博多のほうがよかとか。
福祉だとか子育てだとか、基本知識を必要とする政策よりも話しやすいネタである。しかも話題としてはベタである。有識者と言われる専門家が審議会で議論し、その結果が計画に反映され、粛々と事業として執行される。専門特化して非常にレベルの高い議論をしているとは思う。しかし、素人である都民が蚊帳の外になっているのはあまりにももったいない。
当時の石原都知事は語る。「江戸のように洗練された都市の姿を取り戻していきたいと思います。この東京を“ 美しい街” に生まれ変わらせるには、東京都と都民やNPO、企業、区市町村などが連携して取り組んでいくことが必要です」と。この言葉に喝采を送った1人としてこの言葉が現実の政策に反映していくことを期待したい。
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