[七尾藍佳]【「戦後レジームからの脱却」とは何か】~戦後左派の「敗戦へのルサンチマン」を吸収し改憲へ進む安倍政権~
Japan In-depth / 2015年3月7日 18時0分
自民党は憲法改正の国民投票に参加できる年齢を現行の20歳から18歳に引き下げる改正案を今国会で成立させる方針です。安倍政権は、憲法改正に向けてフルスロットルでばく進していると言えるでしょう。
前稿では政治体制と、その基盤となる憲法を大きく変えるような「憲法の政治=Constitutional Politics」と「通常の政治=Normal Politics」に分けて政治を捉えるアメリカの政治学者ブルース・アッカーマンの理論をご紹介しました。
「憲法の政治」の主役は、国民=we the peopleです。フランスやアメリカにおいてそれは「革命」の瞬間でした。たとえば現合衆国憲法の前身、連合規約が制定されたのは独立戦争の最中1777年で、植民地のwe the people=一般市民が立ち上がって作ったもの。英国からみれば「違法行為」です。
日本はどうでしょう。憲法学では1945年8月に日本で「革命」があったことになっています。「八月革命説」とされるれっきとした学説です。なぜ「革命」なのか?大日本帝國では主権は天皇にありましたが、それが現憲法では国民です。この主権の移動を憲法学者が一生懸命説明しようと試みた結果、学術的には「革命」があったということになっているのです。
ただこれはあくまで理論的な話で、実際に起きたのは「敗戦」。安倍総理はこの「敗戦」を日本国憲法とほぼ同義に捉えています。だからこそ日本は「真の独立国」となるために自ら憲法を制定しなくてはならない、というロジックです。では憲法を「護ろう」とする「護憲派」は日本の独立を重視していないのでしょうか?真実はむしろその逆です。
戦後日本の基盤となったのは吉田茂首相が日本を西側陣営に組み込み、日米安保条約を締結すること=「部分講話」を選択したサンフランシスコ講和条約です。これには社会党・共産党のみならず、丸山真男や清水幾太郎といった「戦後知識人」が総出で反対しました。各人・各勢力の主義主張はそれぞれ「左」への傾き度合いによって異なりますが、共通しているのが「反米」です。彼らは、西側陣営に入ることはアメリカの「帝国主義」に与すること、すなわち日本の「自主独立」が侵害されると考えたのです。ここには「敗戦」の屈辱と、そこから立ち上がろうとする「ナショナリズム」の深い刻印が見て取れます。
今では「左翼」と言うと「愛国主義」とは一番遠いところにいるように思われていますが、歴史を辿ると異なる側面が見えてきます。米軍を日本に駐留させる「屈辱」と、経済発展という「実利」のどちらを重く見たかで言えば、吉田茂首相は「実利」を取りました。一方「全面講和派・左派」は「屈辱」を耐え難いと捉えたのですから、当時の自民党よりも「愛国的」だったと言えるでしょう。
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