[神津多可思]【今年度経済、基調は明るいが】~財政再建ロードマップが試金石~
Japan In-depth / 2015年4月6日 11時0分
原油価格の下落を背景としたインフレ率の低下を捉え、日銀の追加緩和かといったことが引き続き話題にはなっているが、ここしばらくの日本経済の先行きを不安視する声はずいぶんと聞こえなくなったように感じる。今年10月に予定されていた消費税の再引き上げは延期されてしまったし、当面、はっきりとみえるマイナス要因は見当たらない。
もちろん、地政学的なリスクは世界のここかしこにあり、グローバル化した経済において、いつ何時思わぬショックが入るか分からない。常在戦場の心構えは必要だ。それでも2015年度の最もあり得べき日本経済のシナリオを描こうとすると、年度を通じて緩やかに回復していくという姿にどうしてもなってしまう。
そうしたシナリオの背後には円安と原油安という2つの力が作用している。円安については、第2次安倍内閣成立後、2013年央にかけて1ドル100円程度まで一挙に円安が進んだ。その後、日銀の追加緩和を契機に、2014年末にかけてさらに120円程度まで円が安くなった。こうした大幅な円安が輸出に好影響を及ぼすことが期待されたが、現実にはそれはなかなか顕現化せず、むしろ輸入コストの上昇のマイナス面が先に出た。
それは、昨年4月の消費税増税と相まって、消費者物価を押し上げ、90年代初頭のバブル崩壊後初めての3%を超すインフレに直面することになった。しかし賃金上昇が追い着かず、実質賃金は目減りした。これでは2014年度の個人消費が不調であったのも当たり前だ。
もともと、円安がマクロ経済に与える効果が発現するには一定の時間がかかると考えられる。内閣府の短期マクロ計量モデルでも、円安の効果は1年目にはあまり現れず、2年目に大きく出る。そうだとすると、100円への円安の効果がフルに出るのがまさに今、さらに120円への円安の効果については2016年に入ってからということになる。昨年10~12月期以降の輸出の動きをみると、次第に増加基調がはっきりしてきており、まさにラグを伴って円安の効果が出て来ている。
もっとも、3月に発表された内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」をみると、日本の製造業の海外現地生産比率引き上げの動きは衰えをみせていない。5年後には、加工型の業種で全体の約3分の1、素材型の業種でも約4分の1は海外生産という見通しになっている。マクロ計量モデルは、あくまでも過去の平均的な姿を示すものであり、現在の足元での変化を織り込めば、これまでよりは円安の効果は小さくなるとみておくべきだ。それでも、もはや円安のプラス効果はないとまで言うのは言い過ぎであり、これまでの大幅な円安は、新年度を通じて日本経済を下支えしていくと考えられる。
一方、原油安についても、同じ内閣府のモデルでは、3年程度、持続的に経済を押し上げる効果をもたらす。円安が主として輸出、設備投資といった企業活動にプラス効果を持つのに対し、原油安は家計の消費を刺激する。「2年で2%のインフレの実現」という観点から見れば、物価下落は迷惑なことだろうが、経済成長にはプラスに作用すると考えられるのである。原油価格が半年で半減するといったことがいつまでも続くことは考えられない。したがって、1年経てばインフレ率への影響は消えてしまうだろう。しかし、その経済押し上げの効果はもっと長く持続する。
これらを背景に、新年度においては、これまで企業部門に溜まってきた日本経済を前向きに動かしていく潜在的な力が、賃上げ、配当増、設備投資活性化というかたちで解放され、それが家計部門に波及し、日本経済は緩やかに拡大を続けるとみられる。その期間は、極めて大胆な金融緩和(出口戦略がどうなるかはなお不透明だが)と、収支が苦しい中で捻り出した追加的な財政支出(財政再建ビジョンは一層見えなくなっているが)により、やっと手に入れた時間的余裕だ。
この時間を漫然と過ごすにはあまりにも大きなコストがかかっている。高齢化、グローバル化がいっそう進む下にあっても、この国土に暮らす一人一人がさらに豊かな生活な生活を送れるよう、経済諸制度・慣行の見直し、持続可能な社会保障制度の確立に向けた動きを、新年度においてはっきりと目にみえるものとしなくてはいけない。今年夏にどのような財政再建のロードマップが出てくるか、それがまずは最初の試金石だ。
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