[古森義久]【安保法制の背後にある憲法の特殊性】~9条に込められた占領米軍の意図~
Japan In-depth / 2015年4月13日 11時0分
日本の安全保障政策がいよいよ大きく変わろうとしている。だがその政策を中国や北朝鮮の軍事脅威が高まる現実に対応して実効性を持たせようとする動きは憲法第9条の制約にどうしてもぶつかる。自国防衛のための戦力の保持や行使にも大きなブレーキをかける日本国憲法の特殊性である。その特殊性を理解するには憲法の起源を知ることが欠かせない。
私はおこがましいが日本国憲法を起草した当事者に直接に話を聞いた数少ない日本人ジャーナリストである。相手は憲法起草当時の1946年2月に日本を占領していた米軍総司令部(GHQ)民政局次長チャールズ・ケーディス陸軍大佐だった。周知のように日本国憲法は同年2月はじめの10日間にケーディス大佐を実務責任者とする米軍当局者10数人により東京のGHQ(現在の第一生命ビル)内で書かれたのだ。この事実を憲法改正に反対する現憲法死守派はふしぎなほど指摘しない。
私はケーディス氏には1981年4月に会った。当時、私はアメリカの研究機関「カーネギー国際平和財団」の上級研究員として日米安保関係の研究をしていた。ケーディス氏は当時、なおニューヨークの大手法律事務所で弁護士として働いており、憲法起草の体験を詳しく語ってくれた。4時間ほどのインタビューとなった。
そのケーディス氏の言葉で強く印象に残ったのは、占領米軍側の日本の憲法作成の最大の目的が「日本を永遠に非武装のままにしておくこと」だったという点だった。とくに憲法第9条がその米側の意図の集約だったというのである。「戦争の放棄」「交戦権の不保持」「戦力や陸海空軍の不保持」など9条は本来のアメリカ案では「日本の自国の防衛にもそれらの禁止は適用される」となっていた、というのだった。さすがに自国の防衛のための戦力も戦争も禁止という条項はケーディス氏の法律専門家としての判断で削ってしまったとのことだった。
だが当時の占領米軍の側の意図は明白だった。戦争で示された日本の軍事能力のいかなる再現をも恐れて、日本を永遠に軍のない国にしようとしたのだ。軍とは主権国家の存立や利害を守るための物理的な手段だといえる。政治、外交、協議、譲歩など非物理的な手段が機能しなかった際の最後の手段であり、いまの世界ではどの主権国家も当然の権利としてその手段を保有している。だが日本国憲法は米軍の意向により、戦後の日本からはその究極の手段をも奪おうと企図されたのである。
これからの憲法改正論議でも提起されねばならない「いまの日本国憲法とはなにか」の基本的の歴史的な事実だといえよう。
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