[文谷数重]【ダライ・ラマさんはプレスター・ジョンか】~敵の敵に甘い保守論壇~
Japan In-depth / 2015年5月10日 11時0分
ダライ・ラマさんは、プレスター・ジョンではないだろうか。中国との関係悪化以降、保守論壇ではチベット問題やウイグル問題を取り上げる機会が増えている。そこで気になるのは、チベット亡命政府の指導者ダライ・ラマさんへの過剰な期待だ。
もちろん、ダライ・ラマさんは高潔な宗教指導者であり、世界中から尊敬を受ける大人物である。しかし、保守論壇で過剰に持ち上げ、期待する態度には不健全なものを感じる。中国への反感のあまりダライ・ラマさんを反中国の同盟者としている。さらにダライ・ラマさんと自由と民主主義と人道主義といった西側価値観が共有していると考えている。
これは結局中国に対する強烈な反感があって、その裏返しにすぎない。この点で、ダライ・ラマさん待望はプレスター・ジョン待望と同じである。プレスター・ジョンは、中世欧州でアンチ・イスラムとして想像された、アジアにいる高潔で熱心なキリスト教君主である。十字軍時代、ヨーロッパ人は反イスラム同盟としてプレスター・ジョンの遠征を期待していた。
■ リップサービスは真に受けるものではない
ダライ・ラマさんはチベット亡命政府の顔である。当たり前だが亡命政府であるため、西側には自由や民主主義をリップ・サービスする。
そのリップサービスを真意と真に受けるのは早計である。もちろん、今のところは互いに利用できる関係にあり、相互に利益を産むかもしれない。だが、過度な思い入れをするといずれしっぺ返しを貰う。
敵の敵を持ち上げるのはよいが、持ち上げすぎるといずれ深い失望につながる。第二次世界大戦で、米国はソ連に対して過剰な思い入れをして、戦後に絶望を味わった。日本も冷戦後半に新中国に過剰な思い入れをして、今はその反動の最中にいる。
同じことがダライ・ラマさんとの共闘の後に生まれる可能性も高い。ダライ・ラマさんはなによりもチベットの愛国者である。このためチベット人の地位向上のために、中国と妥協する可能性もある。
チベット民族の幸福と西側価値観を秤にかけるとどちらをとるだろうかということだ。場合によれば、自由と民主主義と人道主義といった西側価値観について、引っ込める事態もありえるだろう。
■ インドも同じ
これは、インドへの傾倒も同じである。保守論壇では同様に「インドとは価値観を共有しており、同盟関係を強化する」とも言っている。ダライ・ラマさんと同じように、駒としては便利で、互いの利益にもなるだろう。
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