[岩田太郎]【戦前日本と現代中国の「アジア人のためのアジア」】~米中もし戦わば 3~
Japan In-depth / 2015年6月3日 11時0分
「アジアの問題はアジアの人民が根本的には処理しなくてはならず、アジアの安全保障はアジアの人民が根本的には守らなければならない」
「大東亜各国は・・・大東亜を米英の桎梏(しっこく、束縛の意味)より解放して、相提携して其の自存自衛を全うし・・・、大東亜を建設(する)」
似通った内容の文章だ。両方とも、主に米国などアジア域外の「白人国」のアジアに対する軍事的関与を排し、アジア内部での政治的・経済的結びつきを強調している。最初の発言は、「アジア運命共同体」を唱える中国の習近平国家主席が、2014年5月に上海で開催された「アジア信頼醸成措置会議」のサミットで主唱したものであり、比較したのは1943年11月に東京で発表された「大東亜共同宣言」の一部である。
これらは、「もはやアジア人のためのアジアではなく、世界のためのアジアだ。北東アジアの主要国と米国はお互いを必要とし、同様に世界が我々を必要としている」(2014年12月16日付のダニエル・ラッセル米国務次官補の発言)という立場で一貫する米国の利益と真っ向から対立する。
評論家の石平氏は、「アジア地域から米国を閉め出して中国の覇権を確立しようとする習近平戦略は宿命的に、アメリカとの対立を招く。このような攻防からも、アジア太平洋地域における経済・軍事両面においての米中覇権争いがもはや決定的なものとなった感がある」と述べ、米中対立の不可避論を説いている。
アジア内の排他的支配を追求する戦前日本と現代中国は共に、域外覇権国の米国をアジアから排除する理論を必要とし、モンロー主義的な「アジア人のためのアジア」という同じ題目を唱えることになった。皮肉なのは、戦前の中国が「よそもの」の米国と組み、アジアから米国を駆逐せんとする日本に対抗したのに対し、現代日本は過去に自ら排除を試みた域外国の米国と組んで、アジアから「部外者」の米国を追い出そうと画策する中国に対抗しようとしていることだ。
戦前日本と現代中国に共通する域外国排除の方法は、「普遍性を象徴する西洋への挑戦」だ。国際法に対抗する地域法、民主主義・自由主義・法の支配に抗する民族主義や地域的価値観、現状維持を目指す旧秩序に代わる新秩序である。
一方、違いもある。中国は、戦前日本が満州奪取後に国際連盟脱退など国際的孤立から自らを破滅的戦争に追い込んだ教訓に学び、国際協調を是とする。国際連合で拒否権を持つ常任理事国としての立場や、各種国際機関での経済力を背景とした存在感は増すばかり。習主席は、中国国内の「法の支配」強化も宣伝する。だが中国は、普遍性を謳う西洋文明の枠組みや概念、国際機関や国際秩序を使い倒しながら、究極的にそれらを否定し、代替物に発展する可能性を秘めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)などの新機関や新概念を次々に打ち出している。
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