[岩田太郎]【派遣法で経済格差が拡大するなか中国と戦えるか】~憲法・戦争・経済の国会②~
Japan In-depth / 2015年6月27日 18時0分
(本記事は【憲法より国民に対する責任法で権力暴走の抑止を】~憲法・戦争・経済の国会① ~ の続きです)
安倍晋三首相が「岩盤規制」改革の要と位置付ける労働者派遣法改正案が6月19日に衆議院で可決され、参議院に送付された。過去2回廃案になったが、今国会での成立が確実視される。経営者は正社員の仕事を派遣社員で置き換え、何とでも理由を付けて生涯にわたって低賃金で派遣労働者を使い続けられる。
だが、不本意の低賃金・非正規雇用が増えれば貧困化が固定化され、結婚や出産をためらう人が増え、少子高齢化が加速する。企業や投資家を国家より優位に扱う環太平洋パートナーシップ協定(TPP)がこれに加われば、経済格差の拡大はますます進む。分厚い中流層に支えられていた日本の国力はさらに衰退する。
翻って、「企業に優しい」派遣法と表裏をなし、これまた今国会での成立が見込まれる安保関連法案では、「一度に2億人の軍勢を動員できる」と豪語する人口13億人の中国を敵として戦争することが意識されている。改正派遣法で経済格差や貧困・少子高齢化を拡大させながら、国力が必要になる対中戦に備えることはできない。どのような政策を採用すれば、日本は中国との戦いに勝てるか。
歴史をひもとけば、満州事変や盧溝橋事件を契機に中国との戦争、そしてついに対米英戦に突入していった戦前・戦中の日本で、安倍首相の祖父の岸信介らが、貧富の格差を縮小する国家改造を戦争遂行と同時に行った姿が浮かび上がる。
満州国政府や商工省に在籍したいわゆる革新官僚の岸は、当時の米英で自由主義経済体制や自由貿易が行き詰まりを見せる中、統制計画経済による国家社会主義的な制度を考えた。岸は独りではなかった。自由主義経済が不条理であり、新たな国家経済形態が必要という思考は、陸軍の「統制派」、北一輝から石橋湛山、高橋亀吉に至るまで、当時の右翼と左翼の多くが共有していた。
このように統制経済下での「資本と経営の分離」を推進する商工省事務次官の岸と、資本家の利潤を最重要視する商工大臣の小林一三の間で論争が起こり、いったんは小林が勝利するものの、岸ら革新官僚は「資本・経営・労務の有機的一体」を唱え、圧倒的な立場を誇る資本家や株主の地位を下げ、従業員の地位を上げていく。早い話が所得や富の再分配で、「岸はアカだ」と言われた所以だ。
この間の具体的な動きは、一橋大学の森口千晶教授とカリフォルニア大学のエマニュエル・サエズ教授が2008年に発表した、明治から現在に至る日本における所得と富の集中の変化を納税データで実証した共著論文(英文)に詳しい。
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