[俵かおり] 【なぜエチオピア人は速いのか?】~過酷な環境と貧困からの脱出~
Japan In-depth / 2015年7月5日 18時0分
エチオピアは長距離走やマラソン大会で常に上位を席巻することでよく知られた国だ。1960年ローマ五輪で裸足で走って金メダルを取り、1964年東京五輪で2連覇を成し遂げた “裸足のアベベ”(本名はアベベ・ビキラ)は日本で今でもよく知られている。エチオピアのランナーたちの長い手足、すらっとした体型、長距離の終盤になっても全く疲れを見せるどころか、余裕の笑みを浮かべるかごとくの美しい走りは神々しくさえある。
実際、エチオピアでは走ることは人々の日常生活の中に深く入り込んでおり、アディス・アババでも、毎朝朝5時ごろ、多くの人たちが道路を走っている姿を目にする。エチオピア人にとり“走る”ということは、先進国の健康ブームという近年見られるトレンドではなく、彼らの骨の髄にまでしみ込んでいるといった印象だ。
なぜエチオピア人は走るのか。そしてなぜ速いのか。エチオピアは高地の国である。特に中部から北部にかけては空気の薄い標高1500メートル以上の地がほとんど。最高峰は北部のシミエン山地のラス・ダシェン山で標高は4550メートルだ。国内の大きな都市はほとんどが標高2000メートルから2500メートルのところにある。(アディスは標高2400メートル)
このような山岳地帯で、人々ははるか昔から細々と農耕を営んで暮らしている。その暮らしは楽ではない。今でも薪や炭を使い、牛で農耕をするという原始的な生活。子どもたちは労働力であり、幼いころから裸足で水や薪を取りに行ったりヤギや羊の世話をしたりする。
「子どもたちは親から色々な仕事を頼まれる。子どもは裸足で走って山をかけ、用を済ませる。山と丘だらけだから体は自然と訓練される」とエチオピア人男性は言う。「こんな中で育っているから丘を見ると走りたくなるのもエチオピア人」そう、彼らにとり、走ることはDNAに組み込まれた行為であり、文化であり、習慣であり、必然。“スポーツ”などという高尚な領域に入る運動ではないのだ。
このような過酷な環境で鍛えられた者にとり、マラソンなどは楽なことだろう。ましてマラソンが低地で行われていれば、なおさらだ。だからこそ、エチオピア人ランナーは、あのように全く疲れた表情を見せず、神々しい顔つきで42.195キロを走りきることができるのだ。
実際、長距離走とは全く無縁の私でさえ、エチオピアに暮らして、ジムで毎日数キロ、スロー・ジョギングをしていると、日本に帰国した際、8キロほどは軽やかに、全く息が切れずに走ることができる。スーパーウーマンになったように。知らない間に「高地トレーニング」をしていたのである。
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