[岩田太郎] 【国家による経済統制の岸、企業による経済統制の安倍~憲法・戦争・経済の国会 ③~
Japan In-depth / 2015年7月7日 23時0分
統制経済が形を変えて戻ってきた。統制とは、経済活動を強制的・組織的に計画・規制・誘導することで、多くの場合、経済を軍事に奉仕させることが目的だ。
近年、貿易協定であるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が、「中国を自由貿易のルールに従わせ、その軍拡的思考や行動を制限できる有効な武器になる」とのTPP軍事論がオバマ米大統領をはじめ、カーター米国防長官、ペトレイウス元米中央軍司令官・元中央情報局(CIA)長官や、新米国安全保障センターのパトリック・クローニン上級顧問などを中心に盛んに唱えられている。
加盟国の国民主権を規制して各種国内ルールを共通化させ、グローバル経済活動を強制的に米国の軍事・政治目的に誘導する、新種の経済統制だ。規制の対象は企業から国民主権へ、統制の主体は政府から投資家や多国籍企業に移る。
こうしたなか日本でも、中国と戦える国になるべく、安倍晋三首相が金融政策・財政政策・構造改革を通じて景気浮揚を図るアベノミクスを推進している。だが、安倍氏の祖父である岸信介が戦前・戦中に「革新官僚」や商工省・軍需省大臣として、また戦後には総理大臣として、国家による統制経済を駆使し大胆に経済格差を縮小させたのに対し、安倍首相が実行するアベノミクスでは貧者への福祉は削減され、多くの労働者が生涯食うや食わざるやの派遣的地位に閉じ込められる一方、富む者は富んで格差が拡大、国力・防衛力が低下する仕組みだ。
戦前・戦中・戦後を生き抜いた祖父・岸は、行き詰っていた資本主義にマルクス主義的統制を取り入れて大衆を富ませ、国力増強を目指した。ちなみに、岸が商工省で格差縮小を推進していた頃、大恐慌後の米国でもルーズベルト大統領が労働者の地位を向上させる政策を実行していたことは注目に値する。
戦後、岸は首相として急進的左派や共産主義を抑え込むために社会党右派に近い政策を採用し、「貧乏の追放」「所得倍増」を掲げた。岸が設立に深く関与した通産省は明確な目的を提示し、巨額資金を戦略産業に集中して高度経済成長を呼び起こし、世界で最も格差の少ない「一億総中流国家」の基礎を固めた。
国会では、「私は、全力を傾け、すみやかに国民の期待に応え得る福祉国家の実現をはかる所存」「低所得階層の生活は一般水準との開きが大きくなり、加えて、老齢人口が目立って増加していることなどは、見逃がすことのできないところであります。社会保障制度の確立は、政府が最も力をいたしてきたところであります」と述べ、格差対策を着実に実行した。老獪な岸は、姓をもじり「両岸」とも呼ばれ、右翼や左翼のどちら側にも通ずる幅広い人脈と度量を持っていた。
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