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[安岡美佳]【新国立競技場、創造的デザインの背景とは】~ダイアローグを前提とする欧州の建築家たち~

Japan In-depth / 2015年7月11日 18時0分

[安岡美佳]【新国立競技場、創造的デザインの背景とは】~ダイアローグを前提とする欧州の建築家たち~

私が住居を構えるコペンハーゲン北部に、オードロップゴーと呼ばれる美術館がある。小粒ではあるが、風光明媚、かつ自然豊かなエリアに立つ美術館は、独特の展示はもちろんのこと、フィンユールというデンマークデザインの巨匠の住居が移転されており、建築に関心のある人であれば、必ず訪れる場所の一つになっている。

新館として2005年に増設された建築も特徴的な建築だ。宇宙空間のような外見が、自然の中にぽっこりと現れる様子は、昔ながらのデンマークの茅葺き屋根の立ち並ぶエリアに、不思議な空間を作り出している。ガラス張りで光を多分に取り入れるカフェエリアや曲線を多用した有機的な外枠、斜めに広がる内部のパーティションにも、異空間を感じる。

ただ異空間ではあるのだが、不思議なことに、この非日常的なデザインは、美術館という場には、効果的であるようだ。いつもと違う空間に身を置きアートに触れ、自然と調和する美術館建築のカフェで、まるで森の中にいるような感覚を感じながら、思索に耽る。そんな時間を過ごすのに、最適な空間が構築されている。本当にすばらしい建築空間だ。

この空間を創り上げた建築家に興味をもって調べてみて、初めて、 ザハ・ハディド(Zaha Hadid)というイラク出身、英国で教育を受けたという建築家を知った。そう、あの、今評判のザハである。2020年の東京オリンピックの新国立競技場デザインを手がけたあのザハさんである。

オードロップゴー館長のザハ建築への評価は高い。「ザハ・ハディド氏の建築は、もともとあった田舎家とは雰囲気が大きく異なるものではある。しかし彼女の建築は場の雰囲気を正確に捉え、それを近代的な形で再現することに成功している。従来より保ち続けてきたオードロップゴーの特徴を保っているのだ」ただ、建築家はあの有名なザハである。建築費がかさむ、現実的なデザインに修正するなどのザハ建築にありがちな課題は、ここでも見られたという。

私は北欧に引っ越して間もなく、ザハ建築に魅了され、また英国やデンマークの近代建築の奇抜さに魅了されてきた。英国やデンマークの建築事務所も創造的なデザインで、近年非常に注目されているが、なぜそのような建築デザインが可能なのだろうかというのは、その頃からの疑問ではあった。実現可能性を考えたら引くことを躊躇してしまうような線を描く建築家とはどのような人たちなのだろうか。

欧州で、創造的な建築がデザインされる理由は様々だろうが、一つには、デンマークや英国の建築家は、エンジニアではなく、アーティストであるということが大きいように思う。日本の建築学科は、エンジニアの教育を受けていることが多い。一方で、英国やデンマークの建築家は、アート教育を受けているのだ。もちろんマテリアルに関心を寄せる建築家もいるとは思うが、デンマークの建築家は、創造性を存分に発揮させ、新しい理論や哲学を展開する芸術家なのである。彼らの言質に「ものづくり」をする人たちというというより、「哲学者」といったような印象をうけるのはそんなわけなんだろうと思う。

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