[神津伸子]【誰にでも甲子園はある】~「野球は人生そのもの」江藤省三物語 2~
Japan In-depth / 2015年7月14日 12時2分
野球指導者江藤省三が憂いているのは、目先の事ではない。野球界全体のこと。子供たちがキャッチボールを、野球を、やらなくなってきて・・・。このスポーツの楽しさを伝えたくても伝えられない。子供たちに正しい指導が出来る人間も少なくなり。
江藤の新たなフィールドは、千葉県のとある県立高校。梅雨明けを思わせる好天の週末の朝7時から、2日後の全国高校選手権大会千葉県予選1回戦を目指した、緊迫した練習が展開されていた。この日も、朝からすでに気温は30℃を越え、しかもグラウンドは照り返しと土埃で暑さが増幅される。グラウンドは野球場が1面取れ、さらに隣ではサッカー部が練習出来るほどで、都会っ子が羨む広大さだ。周囲は、田畑、森林に囲まれ、最寄駅からはバスで片道30分。
部員11人の小さな普通の部活動。そのような遠隔地でも、江藤の人徳で練習に多くの人が集まって来る。慶應義塾大学硬式野球部時代の一期下の後輩である会社会長・杉山敏隆、大リーグ評論家、福島良一。そして、江藤が育てた慶大野球部OBの塾経営者、茅根徳人。
茅根は現役時代のポジションがキャッチャーだったことから、「パスボールが多いので、見てくれないか」江藤の依頼を受けて、駆けつけた。炎天下、3年生捕手を相手に何球も何球も向き合って、ワンバウンドの球を投げながら、グラウンドの片隅で基礎練習を続けていた。汗が容赦なく吹き出す。的確な指示が飛ぶ。3年生捕手の眼鏡の奥の真剣な眼差しは、茅根の指導を一言も聞き逃すまいと、必死だ。グラウンドの全体練習が終了しても、2人は向かい合ったまま、黙々と基礎練習を重ねた。
「あんな本格的なキャッチャーとしての指導は、彼はこの3年間で初めて受けた」
江藤は言う。野球指導者不足が言われて久しいが、正しい指導を受けることもなく、卒業していく高校生が、いや、野球をやめていく子供たちが本当に多いのだとも話す。
「もう一度入学し直してぇ」3年生のショートで、4番打者が、グラウンドでつぶやいた。予選一回戦を2日後に控えている。「今になって、もっともっと野球を教わり、上手くなりたい気持ちになったのではと思う」(江藤)
野球を続けたくても、厳しい環境
まだ、やれることが沢山あると思いながら、彼らは高校最後の公式戦になるかもしれない1戦を迎えなければならない。つぶやいた3年生遊撃手は、大学でも野球を続ける意志を強く持つが、他の3年生は野球はここまでと、考える。続けたくても、経済的な理由からも続けられない者が少なくないのだという。野球の用具一式揃えれば、数万円。疲弊すれば、買い直し。同校でも、経済的事情から、野球が続けられずハンドボール部で頑張る部員もいる。試合には、助っ人として登録される。
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