[田村秀男] 【上海株暴落が暴露、“国際通貨”人民元の無謀ぶり】~SDR通貨認定を焦る中国~
Japan In-depth / 2015年7月21日 18時0分
実のところ、上海市場での外国人シェアはごくわずかである。グラフは香港経由の上海株投資資金の流出入額である。上海株が急降下を始めた当時の、香港経由の上海株売買シェアは上海市場の時価総額の1%にも満たない。つまり、外国人投資家は、ちょうど、膨れ上がった風船を突くほんの小さな針の役割を果たしたようだ。
北京は頭を抱え込んでいるだろう。上海・香港相互取引など、ほんの小さな実験でしかない。SDR通貨認定のためには、これから順を追って、着実に本格的な金融市場の自由化に向け、プログラムを建て、実行を迫られる。すると、外国人投資の比率が高まる。党による株式市場支配も、市場統制も効かなくなるだろう。
ともかく、習近平政権は当面、株価の暴落を食い止めることが最優先課題だ。中国人の個人投資家数は今回の株式ブームで急増し、共産党員数8800万人をはるかに超えている。株価引き上げの旗を振ってきた党指導部の信頼は大きく損なわれる。
株式バブルの原動力である信用取引では、住宅を担保することも解禁するなど、取引規制を緩和した。上場企業の半数以上を売買停止にした。人民銀行は市場向け資金供給を約束し、証券業界が共同で株を買い支える。他方では、株式の新規公開を禁止した。株価指数先物を利用した空売りを取り締まる。7月1日に習政権の肝いりで施行された国家安全法では、金融危機時の強権発動を可能にしている。公安当局が投機の取り締まりに動き出した。
こうした一連の規制強化は、金融市場自由化とは真逆である。人民元は国際通貨の条件を満たさないことを、図らずも、北京自ら証明した。それでも、習近平政権は「国際通貨人民元」の認定をあきらめないだろう。国際通貨として公式的に認定されると、元を自由に刷って、対外膨張の軍資金に使える。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金源にもなる。
国際金融センターを持つ英国など欧州主要国は、人民元決済という中国利権欲に突き動かされ、「自由利用可能通貨」の定義を大甘に解釈するかもしれない。
米国はいまのところ、譲歩する気配はない。しかし、2001年9月に北京を訪問したオニール財務長官(当時)は江沢民総書記(同)と会ったとき、人民元の自由変動相場制への移行は、党支配体制崩壊につながると配慮した、と自身の回想記で述べている。
ワシントンは共和、民主両政権とも、中国の金融については部分開放、元小幅切り上げで妥協してきた。日本としては、米国としっかりと意見を合わせて、人民元のSDR構成通貨化を審査するIMF理事会の場で、自由利用可能通貨=金融市場自由化の筋を貫くべきだ。
*トップ画像:香港資金と上海株価グラフ(作者作成)
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