[田村秀男]【日経のFT買収、日本経済にとってプラスになるのか?】~国際金融市場の代弁紙と同一論調となるリスク~
Japan In-depth / 2015年7月27日 23時0分
日経新聞が英フィナンシャル・タイムズ(FT)を買収した。日本経済のオピニオン・リーダーを自任する日経が1600億円の大金を払って、アングロサクソン(英米)が支配する国際金融市場を基盤にしているFTを傘下に加えることが、日本にとってどのような意味があるのだろうか。
日経の喜多恒雄会長はFTの編集権の独立を保証し、お互いの文化の違いを尊重すると明言した。日経側からFTの編集路線に介入しないわけである。となると、経営統合の重点はニュースやデータなどのコンテンツの相互活用、FTが先を行くと言われるデジタル技術の日経による活用に絞られていく。
ジャーナリズムというものは基本的にローカルであり、ローカルに根ざしたうえでグローバルな世界に切り込んでいくものだ。筆者は日経に長く在籍した。1980年代半ばから後半にかけてワシントンに、1990年代後半には香港に駐在し、プラザ合意、日米通商摩擦、ブラック・マンデー(87年10月のニューヨーク株価大暴落)、香港の中国返還、アジア通貨危機などと激動する経済の最前線に立った。
ワシントンは、プラザ合意後、対日金融緩和圧力を激しく加え、通商摩擦では戦時の対日制裁条項まで持ち出す。中央情報局(CIA)まで動員して日本製半導体のダンピングの証拠を集める。戦勝国対敗戦国の構図さながらである。ナショナリズムの情念に流されることはないとしても、日本人記者であれば、米国の傲慢ぶりを行間に漂わせようと考える。
欧米メディアは日本の記者クラブ制度が閉鎖的だと非難するが、ワシントンでは英語メディアだけ相手の非公式会見はしばしば開かれ、米国の一方的な見方が流される。筆者はそれに潜り込もうとして、締め出されたこともある。
香港返還時では、英メディアは香港が恥ずべきアヘン戦争勝利のたまものであることをいっさい無視するかと思えば、中国共産党体制に好意的である。日本人である筆者の関心はと言えば、大英帝国の狡猾さと北京に監視される香港市民の受難だった。
FT側は日本発の企業事案に辛口の記事を連発するだろう。4年前のオリンパスの粉飾決算事件、そして現在の東芝の不正会計事件では、日経の甘さとは対照的に国際金融市場の代弁機関、FTは遠慮も仮借もない。
日経とFTが日本の針路にかかわる政策で一致する場合も少なくない。消費税増税が典型例だ。米欧の国際金融マフィアが牛耳る国際通貨基金(IMF)は2011年ころから日本の消費増税をせき立ててきたし、先進7カ国グループ(G7)、先進国に新興国を加えた20カ国グループ(G20)はIMFの意向に従う。13年7月下旬のモスクワG20財務相会議は、「財政再建よりも成長」を重視ながらも、日本には緊縮策の消費増税を求める声明を発表した。FTはまさしくそうした国際金融コミュニティーを代弁する。
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