[瀬尾温知]【作り直せ、東京五輪エンブレム】~国民が祝福できる祭典に~
Japan In-depth / 2015年8月3日 23時0分
ベルギーのリエージュは、ムーズ川に沿う形で国に富をもたらしたワロン工業地帯にある。かつての繁栄の日々は過ぎ去った旧市街にある劇場が、予期せぬ幕開けで日本にその姿を見せた。
2020年東京オリンピックのエンブレムがベルギーのリエージュ劇場のロゴと似ているとされる問題で、エンブレムをデザインした佐野研二郎さんは、「日本らしさを自分のなかで追求してデザインした。報道されている海外作品はまったく知らないもので、制作時に参考にしたことはない」と、盗作疑惑を否定するコメントを7月31日に発表した。
リエージュ劇場の近くにあるマルシェ広場の裏には、地元出身の作家ジョルジュ・シムノンの銅像が立っている。フランスの名匠パトリス・ルコント監督によって映画化された「仕立て屋の恋」の原作者になる。官能と裏切りのストーリーは、殺人事件の容疑者に見立てられた孤独な中年男の仕立て屋が、純愛の果てに、「君を少しも恨んではいない。ただ死ぬほど切ないだけだ。君は喜びをくれた」と恋をした女に言葉を贈り、そのあと、哀愁に包まれた真相が明らかになる。
ベルギーのメディアは「偶然か、用心深いコピーか」と疑問を投げかけ、日本でも疑われているこの件の真相究明は、デザインした佐野さんの否定を以って盗作でないと信じたい。否定コメントが真相であるならば、気の毒なのは佐野さんになる。組織委員会がデザインコンテストでの複数の受賞歴を対象に募集した104作品の中から選ばれ、デザイン発表の会見で「いつの日かオリンピックのシンボルを作るのが夢だった」と話していた。芸術家が夢を成し遂げるのに人真似をするなんて考えられない。ロゴにケチがついたことで作品への誇りを失ってしまうことが不憫でならない。
この問題について都庁で取材に応じた舛添都知事が「いろいろあるね」と苦笑いしたのは、新国立競技場の整備計画が白紙撤回されたとこを意識しての率直な反応だった。都知事の苦笑いは国民感情そのものだった。東日本大震災の被災地復興や原発放射能汚染の処理に費用をまわすべきとの理由などでオリンピック招致に反対派だった人たちからは、憤る声も聞こえてきている。それでも方向性が定まったからには後ろを振り返らずに国が一体になって、力を合わせて前進することが大切な時の歩み方ではないだろうか。
新国立競技場の建設費が2520億円にも膨れ上がったことを理由に計画を見直す判断ができたのだから、盗作疑惑のあるエンブレムだって作り直したらいい。組織委員会は国際的な商標登録の確認は行われているからと体裁だけ見繕うのでなく、“国民が祝福できる祭典”に重点を置いてもらいたい。その視点に立てば、作り直すチャンスを与えるのが最善策と思えるだろう。時の解決に委ね、このまま風化させてしまおうとしているのなら残念でならない。
ベルギーのデザイナーはエンブレムの取り下げや変更を求めていることだし、両者にしこりを残さないためにも新たなエンブレムを作るべきである。新国立競技場の当初のデザインを手がけた女性建築家の事務所の幹部は、損害賠償を請求するかについて、「優先すべき事項は私たちの考えについて改めて話し合うことだ」と言及を避けたが、佐野さんには、無償で作り直します、との心意気でチャンスを待っていてほしい。
佐野さんは1964年東京大会のエンブレムが好きで、それを継承しながら新しいものをとのコンセプトだった。継承すべきはデザインよりも、高度成長期にあった助け合いの精神である。それを注入した新たな作品を期待する。仕立て屋のセリフではないが、「日本は喜びをくれた」と、ベルギーのデザイナーも、疑われている佐野さんも、それに国民も行く先に納得して美しく幕を閉じてもらいたい。
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