[文谷数重]【中国は国際法を無視しない】~“米含む対中包囲網の形成”は誤り~
Japan In-depth / 2015年10月29日 11時0分
行動実施の公言も、中国の実務家サイドを支援するものだ。米国は二週間ほど前から実施をアナウンスしている。これは周辺国への周知もあるが、なによりも中国の実務家に時間を与えたものだ。それにより強硬派の暴走を抑え、中国が面目を失わないように工作したものだ。
つまり今回の行動では、「埋立地周辺が公海として扱われた実績」を積んだだけではなく「中国は国際法を無視しない」ことも確認されたのである。
■ 米国の利益と周辺国の利益は異なる
逆に、今回の航海について誤った観測は「米国が南シナ海問題で反中国陣営に立った」と見做すものだ。
周辺国には確かに反中国の動きがある。ベトナムとフィリピンが対中強硬的態度に転じ、マレーシアとインドネシアも、中国との敵対関係に入らないように注意はしているものの、安全保障セクターは対中シフトに動いている。ちなみに、台湾は潜在的に中国と同一歩調である。
だが、今回の件で米国がその陣営に入ったわけではない。
そもそも、米国の利益と周辺国の利益は大きく異なっている。米国にとっての利益は自由航行と上空通過でしかない。それが確保されれば、あとはどうでもよい。そこでの岩礁や暗岩の取り合いや、海底資源や漁業資源の奪い合いには関与はしない。
米国は埋立自体を否定・反対しているわけではない。その地先が領海となり、上空が領空となることを否定しているに過ぎない。その点から、今回の行動をアメリカを含む対中包囲網の形成と見做すべきではない。
もちろん米国の安全保障セクターは、対中対峙を重視する。その点から軍隊同士ではベトナムやフィリピンに接近している。だが、経済分野では中国は米国最大のパートナーである。ベトナムやフィリピン程度の市場とは全く引き換えにならないものだ。この点から今後も中国とはうまくやっていく必要があるため包囲網には決して加わらない。この意味でも、対中包囲網そのものが幻想なのである。
■ 日本の利益も航海と上空通過だけ
日本本来の立場も米国と変わらない。日本にとっての問題も自由航行と上空通過の権利でしかない。埋立問題は他人同士の問題に過ぎず、手を出すと火傷するだけで現実的な利益もない。それで中国との関係をこじらせる不利益の方が大きい。
その点から、中国の埋立については日本も関与すべきではない。「力による現状変更は認められない」云々との自分の言葉に踊らされて問題に手を出し、中国と無用のトラブルを起こすべきではないということだ。
南シナ海での緊張は、むしろ東シナ海での緩和に繋がる点で日本にとっては好都合である。南シナ海については特に中国を名指ししたような批難はせず「みんな仲良く」程度に、無意味で無難なことを言っておけばよい。
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