[神津多可思]【グローバル経済の新しいバランス】~日銀は追加緩和すべきか~
Japan In-depth / 2015年10月29日 19時14分
ここ数年、世界経済は金融危機前の4%台の成長になかなか戻れないで来た。とくにこのところ、これまで世界経済を牽引してきた新興国で成長率が低下し、逆に先進国では上下しつつもゆっくり成長率が上昇するというすれ違いが起きていた。
そうした中で、この夏場以降、中国経済の減速がさらに明確になっている。そのため、中国向けの輸出のウェイトが大きい国が影響を受け、一次産品のグローバルな需給が緩み、最終的にはそれらの動きが先進国経済にも波及して先進国経済の成長も失速するのではないかという心配が急速に拡がった。実際、国際金融市場では株価が下落するなど大きな動きも現れている。
そうした状況を受けて、米国では政策金利ゼロの解除を見送るべきだ、日欧では追加の金融緩和が必要だなどと、先進国での政策面の配慮を求める声が強まっている。しかし、まずもってここで良く考えるべきは、中国を始めとする新興国経済の減速は、避けるべきもの、あるいは避けられるものなのかということだ。
新興国経済も、いつまでも2桁の高度成長を続けられるわけではない。実際、企業、政府の債務の水準がかなり高くなっている国が多い。さらに、しばしば指摘されるように、先進国の大胆な金融緩和のスピルオーバーが新興国の成長を支えてきた側面も無視できない。こうした状況は、長期的には維持可能ではなく、どこかのタイミングで調整が不可避だ。
そう考えると、単純に「新興国経済の減速を招くから、米国はゼロ金利政策を続けるべきだ」というのはちょっと短絡的に過ぎることになる。米国の中央銀行(FRB)は、米国経済ができるだけ息の長い成長をするために、そろそろゼロ金利を解除すべき時期ではないかと考えているはずだ。それを否定して、もともと、減速せざるを得ない新興国経済の成長を支えることを優先すべきというのはお門違いというものだろう。
もちろん、経済は生き物であり、緩やかな景気拡大の尾根道をたどっていても、何かの拍子に坂を転げ落ちてしまうこともあり得る。何かの拍子に不安心理が拡がり、企業・家計が弱気化し、経済全体として必要以上にリスクを取らなくなり、結果的に景気後退がひどくなるという展開は、過去、さまざまな国が経験してきたことだ。
したがって、そうした思わぬ経済不振を避けるための慎重さは重要であり、現在、米国の中央銀行がゼロ金利解除のタイミングを見計らっているのも、そういう観点からの判断だろう。だからと言って、とりあえず目先波風が立たなければ、先々もずっと良いということでは決してない。グローバル経済における新興国と先進国の新しいバランス、それに見合ったそれぞれの経済の新しい安定をいかに円滑に実現するかが大切であり、そのためにどういう政策対応が最善かという議論こそが大事だ。
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