[渡辺敦子]【「日本の」社会科学不要論】〜海外から見た乗り越え難い壁~
Japan In-depth / 2015年11月11日 23時0分
以前、研究仲間で、Palgrave Macmillan社が発行するブックシリーズGlobal Political Thinkersのエディターを務めるFから、日本の政治思想について執筆できる研究者はいないか、と相談を受けた。
Fの専門は、国際関係論の政治思想史である。この分野は近年、西欧中心主義からの脱却という流れの中で、西欧以外の思想への興味が広がっている。従来のポストコロニアル、ポストモダンの文脈に加え、現実主義的なアプローチとして、より建設的な国際政治のありかたを求めて多様な政治思想から答えを模索しようという流れである。今回は、Fの相談から、例の大学改革により不要論かまびすしい日本の社会科学について、考えてみたい。
近代日本は、近代西欧政治思想をいち早く取り入れ、さらにそれを近隣諸国に輸出してきた。このことは、国際政治思想の中の日本を特殊な存在としている。また日本には、思想史研究には長い伝統がある。それを紹介する機会に協力できるのは光栄だが、英語で書ける人物でなければいけないため、なかなか困難な相談だった。Fには何人かの日本人研究者を提案したが、まずメールアドレスを探すのに苦労し、さらに連絡してもなしのつぶてだったらしい。日本人から探すのは困難との結論に達し、最終的に在日外国人研究者に頼むことになったという。ちなみに英米の研究者は大学のHPから連絡先がわかり、大物にメールを送っても気軽に返事をくれたりする。当然、コラボも進みやすい。
今回扱う思想家は和辻哲郎だという。彼の社会思想は現在の国際社会へ示唆するところ多いが、欧米の社会科学では日本研究以外では無名に近く、特に国際関係論で取り上げられることはほぼ皆無だ。もちろん日本人以外にも優れた日本思想の研究者はいるのだが、この分野における最初のまとまった形での和辻の紹介が、日本人の手によらないことはやはり残念だ。
海外にいると、日本の学術界の閉鎖性を時に痛感する。先日は、「国際」と名のつく日本のとある学会で、日本政治思想に関する共同研究の発表を行おうと問い合わせをしたら、「まず学会員であることが前提」と言われた。入会には会員2名の推薦が必要で、しかも英語での発表は交渉が必要だ、という。ちなみに英語圏の学会は通常推薦人不要で、完全にオープンである。学会発表は、審査に通ればよい。ドイツ人である共同研究者にそうした日本の事情を説明したら、苦笑された。これでは海外の研究者が参加するのは不可能に近い。
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