[千野境子]【「国民的和解」の実現が課題】 ~ミャンマー総選挙とアウン・サン・スー・チー氏のこれから その3~
Japan In-depth / 2015年11月20日 7時0分
さて、連邦団結発展党(USDP)は国民民主連盟(NLD)に本当に政権を手渡すだろうか。
疑う人は皆無ではない。前科(1990年5月の総選挙)があるから無理もない。しかし今度は、さすがにそれはないだろう。ミャンマーが事実上の鎖国状態にあった当時と違って、今はインターネットが普及し、一朝事あれば瞬時に世界に伝わる。さまざまなNPOも育った。軍事クーデターの気運や余力があるとも考えにくい。
とは言え、アウン・サン・スー・チー氏とNLDがどのような政権運営を行っていくかは未知数である。スー・チー氏が彗星のように政治の舞台に登場してすでに27年が経つ。2012年4月からは下院議員も務める。しかし政治の実務経験が豊富であるとは言い難い。新たに大量に当選したNLDの議員たちは推して知るべし。どこかの国も大量のチルドレンを生み出してしまったので、大きなことは言えないけれど。
先行きが簡単に読めないのは、スー・チー氏がNLDの圧勝にもかかわらず、大統領になることが出来ないことだ。息子が外国籍(英国)のため軍政下で作られた憲法がそれを許さない。軍政はスー・チー氏を大統領にさせないためにこの規定を作ったと言われても仕方ない。いずれ改正されるとしても、今は間に合わない。
スー・チー氏は「私は大統領以上の存在になる」とか、「新政権は私がすべてを決める」と述べている。しかし待ってほしい。真意がどこにあるのか分からないが、これでは民主化に逆行する独裁宣言みたいに聞こえる。
まあ今は良く言われるハネムーン・ピリオドだから、何を言っても大目に見ればよいのかもしれないが、やはりちょっと危惧される点だ。スー・チー氏は何と言っても国民大衆からの圧倒的支持と人気があり、カリスマ性もあるだけに、ポピュリズムに走る危うさと常に背中合わせにあるからだ。
ただしスー・チー氏の著作や『アウンサンスーチーのビルマ』(根本敬著)などを読むと、スー・チー氏は本来、基本的に思索的で内省の人ではないかと私は思う。だからもし本当に「大統領以上の存在」を目指すならば、もっとも相応しいのはスー・チー氏がこれまで一貫して語り、テーマとしてきた「国民和解」という点においてだろう。
軍政とNLDの対立だけでなく、多くの少数民族との和平、少数民族としてさえ認められていないイスラム系ロヒンギャーの問題、すべて和解が求められている。そもそも1962年にネ・ウィン独裁体制が敷かれて以来、事実上の独裁が姿や形を変えてつづいてきたのだから、和解は至難であっても、これからのミャンマーの至上命題に違いない。それを担い、多くがナットクする人はスー・チー氏ということになる。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「少数派」石破政権はこれから、3つの難題に直面する
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月19日 16時13分
-
「絶望はない」ミャンマー人難民に35年間医療従事 カレン族の医師シンシア・マウンさんに聞く
東洋経済オンライン / 2024年11月19日 11時0分
-
高市早苗氏でも、小泉進次郎氏でもない…「余命は長くて6カ月」石破政権の次を狙う"自民党のキーマン"
プレジデントオンライン / 2024年11月7日 9時15分
-
中国首相、ミャンマーとの関係強化を表明 軍政トップと会談
ロイター / 2024年11月7日 3時9分
-
ミャンマー軍政トップ初の訪中へ 招待、緊密さ強調
共同通信 / 2024年11月4日 16時19分
ランキング
-
1“子どもを持たない選択”「チャイルドフリー」宣伝禁止 プーチン大統領が法律署名
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月24日 21時22分
-
2韓国政府、佐渡で25日に独自追悼行事開催
共同通信 / 2024年11月24日 16時4分
-
3英新兵器、日本に購入打診 「反撃能力」向上を視野
共同通信 / 2024年11月24日 16時17分
-
4ガザ全域をイスラエル軍が攻撃、48時間で少なくとも120人死亡…レバノンでは空爆で20人死亡
読売新聞 / 2024年11月24日 18時47分
-
5飲料にメタノール混入か、ラオスで外国人観光客6人が相次ぎ死亡…日本大使館も注意呼びかけ
読売新聞 / 2024年11月24日 15時44分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください