軽空母の能力を最大にする為には~マンガ「空母いぶき」のリアリティ その2~
Japan In-depth / 2015年11月25日 13時30分
F-35Bは通常の戦闘機と異なり、長い舗装滑走を必要としない。このため島嶼防衛など空港や空自の基地がない場所でも運用ができる。これも米海兵隊がこの機体の採用にこだわった理由だ。F-35Bは垂直離着陸が可能であるが、その場合は多量の武器や燃料を搭載できないので短くとも滑走路があったほうがよいが、それは急場作りでも構わない。機体の整備部隊と、滑走路の設営隊をセットで運用すると有用だ。その辺りのノウハウは米海兵隊や英軍に教えを乞えばよろしい。
なお、現在のところ中国やロシアの空母はスキージャンプ台(注1)は有しているが、カタパルトを有していない。使用しているのはF-35BのようなV/STOL機ではなく通常の固定翼戦闘機を改良したSTOBAR(Short TakeOff But Arrested Recovery:短距離離陸拘束着艦機)機を使用している。このため離艦重量に制限があり、フルにミサイルなどの武装や燃料を搭載できない。このため「遼寧」は搭載機が60機程度とされてはいるが、米国の原子力空母と比べるならば実際の戦力は数分の1に過ぎない。戦闘力は空母「いぶき」と較べても劣るだろう。
作品中で気になったのが、「いぶき」の早期警戒能力だ。少なくともこれまで作品中で固定翼の早期警戒機、あるいは早期警戒ヘリが登場していない。だがいくら優秀な戦闘艦のレーダーでも水平線を見越して探知はできない。このため、レーダーの索敵範囲が狭く、また水上艦のレーダーの死角からの攻撃、特に低空からの攻撃機や巡航ミサイルなどからの奇襲攻撃を受けやすい。このため防御に対する対処時間も局限されて艦隊が損害を受ける可能では高い。つまり早期警戒機がなければ、敵の先制攻撃を受ける事になる。このため米海軍ではE-2Cを運用しており、現在を新型のE-2Dへの換装が進められている。空自でもE-2Cを早期警戒機として運用し、新たにE-2Dの採用も決まったが、これらはカタパルトを持たない軽空母である「いぶき」では運用できない。
ロシアや中国などカタパルトを持たない空母では早期警戒レーダーを搭載したヘリコプターを採用している。早期警戒ヘリは高度や滞空時間、探知範囲などで固定機のE-2CやE-2Dには劣るが、ないよりは遥かにマシである。
現状「いぶき」は空自のE-2CやE-2D、早期警戒管制機であるE-767などの下でしか空母部隊が運用できないだろう。そうであれば、沿岸から遠く離れる事ができずに、空母の能力を限定的にしか使用できない。それでは空母を持つ意義が減ってしまう。
(この記事は、
【海上自衛隊、空母を持つ野望】~マンガ「空母いぶき」のリアリティ その1~
の続きです。その3に続く。本シリーズ全3回)
(注1) スキージャンプ台
空母の飛行甲板に、離陸滑走距離を短縮させるため設けた勾配。
※トップ画像:everystockphoto /photo by kenhodge13(Flickr)
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