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[岩田太郎]【「経済的平等」でテロは防げる?】~ピケティ教授の説は“絵に描いた餅”~

Japan In-depth / 2015年12月3日 7時0分

[岩田太郎]【「経済的平等」でテロは防げる?】~ピケティ教授の説は“絵に描いた餅”~

昨年の師走の日本は「ピケティ・フィーバー」に沸いていた。資本主義が生み出す経済格差を是正し、民主主義を守り育てよと説く『21世紀の資本』のフランス人著者、トマ・ピケティ教授(44)の主張は、格差議論の方向性に多大な影響を与えた。そのピケティ氏が、「パリ同時多発テロなど一連の過激化の原因は、中東地域の経済的不平等にある」との説を発表し、米国では反論が出ている。

ピケティ教授は11月24日付の仏紙『ル・モンド』に寄稿し、「欧州と中東の両方で平等な社会発展モデルが必要だ」と前置きした上で、「中東における欧米の過去の誤った行いが作り出した中東のテロリズムは、経済的不平等の上に栄えるものだ」との見解を表明。「オイルマネーは狭い地域に偏在し、一握りの者たちがその巨額の富を独占し、中東の若者は民主主義も社会正義の恩恵にあずかれず、(貧しい若者が)テロに走る」と述べた。さらにフランスなど欧州諸国の若者たちがテロに参加する動機を失業や経済的疎外に求め、「平等な社会発展こそが憎悪を克服する」と締めくくった。

これに対し、米評論サイト『クォーツ』のティム・ファーンホルツ記者は、「オバマ政権の経済顧問だったプリンストン大学のアラン・クルーガー教授の研究によれば、テロに走るのは貧しい若者だけでなく、裕福な家や中流出身の高等教育を受けた者も多い」とピケティ氏の事実認識の矛盾を突いた。

同記者は、「ピケティ氏が唱える『貧困がテロや暴力につながる』との仮説は、19~20世紀の米国やドイツ、レバノン、イスラエルに関する研究で、そうした行為を行うものが裕福で教育程度が高い者が多いことが判明し、否定されている」と断じ、「貧困のみが原因ではなく、腐敗した政治体制が主因だ」とした。

さらに、ピケティ教授の主張が、イラク侵攻を命令した(同教授が批判する)ブッシュ前米大統領の、「テロとの戦いの答えは希望であり、そのために我々は中東地域の貧困と戦うのだ」との声明に酷似していると指摘した。

一方、『ニューヨーク』誌のアニー・ロウリー記者は、「貧困と経済格差は似ているようで別物なので、注意が必要だ」とコメント。また、『ワシントン・ポスト』紙のティム・タンカースレイ記者は、「イスラム国(IS)の勃興の主因に関する論争は始まったばかりだ」として、見極めが必要との見方を示した。

このように米国内での議論は、中東の経済的・政治的状況に焦点を当てている。だが、ピケティ教授の「経済格差テロ論」は、仏国内や欧州における中東移民排斥を叫び、欧州統合に反対する仏極右政党の国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(47)と彼の政治的対立の文脈で解釈しなければ、本質を見失う。

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