ひとりっ子政策廃止が英国を潤す? その2~中国の何が「脅威」なのか~
Japan In-depth / 2015年12月8日 18時0分
先日のコラムで、中国の一人っ子政策の廃止が将来的に英国への留学生の増加をもたらし、英経済を潤すのではないか、という当地の憶測について論じた。これを国際関係論の用語で言い換えると、「中国の一人っ子政策廃止は、英国の国益である」となる。
国家の外交問題を研究する国際関係論では、「国益」とは概して、軍事的、政治的、経済的な国力の充実により、国民(国家ではない)を守ること、と考えられてきた。国際社会は弱肉強食の世界である、との基本理論は、ここから導き出される。古臭く聞こえるかもしれないが、実際、国家の外交政策の基本は依然として、この意味での国力を強めることを目指している。
一方冒頭に述べた英国の「国益」は、この定義には当てはまらない。だが、今年の国際関係論の話題作のひとつであったThe Global Transformation: History, Modernity, and the Making of International Relations (Buzan and Lawson, 2015) を紐解くと、国際社会におけるパワーの変化と、それに伴う新たな「国益」の概念がおぼろげながら浮かび上がってくる。
同書によれば、19世紀から現在に至るグローバルな構造変化により、「力のモード」の再構築が明らかになってきたという。核兵器も力の概念について変化をもたらしたと言われるが、これは上記の古い定義の力、具体的には所有者を限定する力(ある国家の軍事力など)の範囲を超えるものではなかった。
一方最近より顕著になった新たな力のモードは、軍事力のように特定の国家の所有物ではなく、むしろ社会的資源により規定され、その力を御することができるものに仕える。この力が最初欧米諸国に行使され、次第に世界に広がってきた。それにつれ明らかになったのは、この新たな力を行使することができる「大国」とは結局、領土と人口を持つ国家だ、という単純な事実であるというのだ。
つまり、中国とインドの(より長い歴史的視点からすれば)「復活」は、従来の国力では説明がつかず、いわゆる「ソフトパワー」でもない。むしろ力の「内容」よりも、「様態」が変化したと考えるべきである。
グローバル化がもたらした最大の構造変化は、相互依存の高まりである。この構造においては、人口が多ければ世界の工場にも、消費地にもなることができる。人は国境を越えさまざまな働きをするが、国籍はそのままついて回るから、中国人は中国人として英国に留学し、経済活動を行う。彼らの購買力が英国の国益となり、国家としての中国は英国に恩を売ることができる。
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