[宮崎愛子]【揺れるデンマーク:民主主義とは何か?】~EUに関する国民投票が示すもの その2~
Japan In-depth / 2015年12月14日 18時0分
2015年12月3日、デンマークにおいてEU司法・内務協力の留保撤廃に係る国民投票が行われた。結果としては、投票率72%のうち賛成46.9%反対53.1%で反対が上回り否決された。デンマークが現在参加している欧州刑事警察機構の性質が国家間協力から超国家間協力へと段階が上がった連携になるため、国家主権の一部を国際機関などへ移譲する場合には国民投票で承認を得る必要があるとの憲法の規定により実行された。
今回の結果は、民主主義のあり方や国民投票の必要性を考えさせるものであった。投票前にコペンハーゲン大学の学生や教授と話し、政党ユース団体や政治家へインタビューをしたところ、賛成派政党はもちろんだが、いわゆる知識階層や高所得者の大半が賛成であった。また、議会の62%を賛成派が占めており、自由党に所属するラース・ルッケ・ラスムセン首相も賛成の呼びかけをしていた。
一方、投票前の町やメディアを見ていると反対派のキャンペーンのほうが大きかった。争点を聞いていると反対派は欧州刑事警察機構の参加には賛成しており、国民投票で争われること自体には賛成していた。反対派が主張していたことは、国民投票の結果によりデンマークがEUに対して主権を渡し協力を進めることに賛成するか反対するかという未来におけるEUに対する姿勢をこの投票で発信することを訴えかけていた結果、反対という結果になった。それを受け、ラスムセン首相やデンマーク政府は現在欧州刑事警察機構と別の協定を結ぶことにより参加を続ける交渉を始めている。
今回の選挙で私が民主主義のあり方に疑問を感じている点は2つある。一つは、政治を実際に決めている政治エリートと国民の温度差である。今回の国民投票を巡るEU反対の言説は、日本における昨年の安保法案の成立を巡る反対の言説のあり方と共通したものを感じた。適用除外があることによる弊害ではなく、EUとの関係の是非に論点がすり替わっていたように、安保法案への反対派は、法案により自衛隊の活動範囲がどのように変わるのかではなく、戦争法案や徴兵制度の復活反対などを叫び、この法案によって実現しないような日本の戦争に対する姿勢が主張されていた。法案自体ではなく反対派政党やメディアが簡略化した国民を煽るような筋書きに乗っかった主張が蔓延していた。実際の争点とは異なるところで作られた議論に国民が巻き込まれるこのような状況は、議論されていたとしても民主主義が機能しているといえないのではないだろうか。
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