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[渋谷真紀子]【ミュージカルで移民問題に警鐘】~“アリージェンス”俳優ジョージ・タケイの想い~

Japan In-depth / 2015年12月27日 12時0分

「アメリカに忠誠を誓うか?」「日系人の自由の為にアメリカ政府と戦うか?」「アメリカ政府の日系人への対応に抵抗し、日本への忠誠を表明するか?」「政府に奪われていく家族の勇姿を発信するリスクを取るか?」「アメリカへの忠誠を証明するため、日系アメリカ兵を積極的に送り出すか?」スタンスが異なる為に家族が離れ離れになり、戦後50年の月日を経て辛い記憶を修復するという展開です。観客は多角的に日系人収容の歴史を疑似体験することができるのです。これが、わかりにくい・中途半端とならないよう、「家族への忠誠」というテーマに常に帰るようにしました。

また、史実の正確性とエンターテイメント性のバランスをとるもの、ジョージ・タケイさんの実体験とこの作品を繋ぐ工夫として、演出家スタフォード・アリマさんは「記憶」という表現方法を使いました。子供だったジョージ・タケイさんの記憶を訪ねるというストーリー展開で、事実の描写よりも彼の感情的な記憶の描写としてドラマタイズしている部分もあります。代表的な出来事をフィクションとして繋いでいるので、史実の正確性に欠けているという指摘もありました。ただ、それは史実から伝えたいエッセンスを抽出し、それを伝える為にキャラクター設定やストーリー展開を練り込んだためです。

ロスアンゼルスにあるJapanese American National Museum(日系人博物館)に展示されている歴史文書の引用や収容所暮らしの写真のイメージが綺麗に2時間のミュージカルに凝縮されていると言って下さる方もいました。また、ジョージ・タケイさんの強い記憶も作品の心として埋め込まれています。作品を通してキーワードとなる「GAMAN」は、日本人が思う我慢とは少しニュアンスが異なり、代表曲の一つとしても歌われる為、日本人として違和感を指摘したこともありました。お話したところ、ジョージさんがご両親から教わった記憶では、プライドを持って耐え抜こうというポジティブな意味がありました。「GAMAN」という言葉はジョージさんが幼少期からおまじないのように使ってきた苦境を乗り越える合言葉ということもあり、この作品のテーマになっています。

もう一つ大きな特徴として、明確な敵役が存在しません。日系人の葛藤が主軸となり、声明発表や文書等で表現される「政府」によって日系人は翻弄されていきますが、特定の人物を敵として描くことはしていません。これは、観客の多くが非日系のアメリカ人であり、その人達を見せしめにする為に上演したいのではなく、あくまで日系人の苦労と希望への強さを描きたいからです。終戦を表す日本への原爆投下のシーンも複雑な心境の日系人の想いが抽象的に描かれ、その直後の戦争勝利のVictory Swingという曲も、政府に雇われた勝利ダンスを踊る白人パフォーマーと25ドルしか渡されず解放された日系人の対比を描いています。

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