[岩田太郎]【「信」の欠如がテロとポピュリズムを加速】~特集「2016年を占う!」国際政治~
Japan In-depth / 2015年12月29日 23時0分
日本漢字能力検定協会が選んだ2015年の漢字は「安」だったが、2016年のテーマは「信」になるだろう。政府や政治家、エコノミスト、そして「常識」に対して大衆が抱く信頼感が大きく低下し続けるなかで、絶望した人々が信じられるもの、信頼できるものを強く求めるようになるからだ。
国内では、安倍晋三首相がバラマキ政策で選挙に勝利し、長期政権を盤石なものにする。完全に信を失った民主党など野党が行き詰まり、打破も新生も打ち出せず、国民の信頼を取り戻せないからだ。だが、消去法で強大になった安倍政権にも、日本の在り方や経済再生に関して、信念と根拠に基づくビジョンや方法論がない。その結果、政策がその場しのぎでちぐはぐとなり、失政が続発し、政治に対する国民の不信が募るという逆説的な状況が出現する。
これは、日本に限ったことではない。欧州統合の基盤関係にあるドイツとフランスで、国民が官僚エリートたちの政治・経済・安保面での無策に絶望している。その不信が、2016年に両国での右傾化・国家主義の不可逆的な流れを加速させ、2017年の独仏総選挙において欧州分裂が明確になる。人々は無能なエリートを信じずに見限り、単純明快なメッセージで希望をもたらす大衆扇動家になびく。
米国では、大統領選挙で泡沫候補のドナルド・トランプ氏(共和党)やバーニー・サンダース氏(民主党)は消え、本命のヒラリー・クリントン氏(民主党)やマルコ・ルビオ氏(共和党)など、職業政治家の争いに絞られていく。だが、ここでもエリートたる職業政治家が、「強い米国」と中流層の復興などで、国民の心を一つにし、納得させられる展望を示せない。候補らの論理はねじ曲がり、明朗さを欠き、大統領選の投票基準は消去法になる。大衆は無力感を募らせる。
一方、ジャネット・イエレン議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)は、既定路線である四半期ごとの利上げに邁進するが、「米経済は強い、インフレ率は上がる」との根拠が薄い「自信」を市場も人々も信じず、実際に利上げが実体経済を減速させる。日本では、黒田日銀やアベノミクスへの信頼感も、枯渇する。
問題を解決するどころか、悪化させてばかりの政治・経済の機能不全による既存体制への不信の増大は2016年、大衆に迎合する勢力を世界中で伸長させる。科学や医療分野の不正も増え、人々は信じられるものを求めて、大胆な改革や解決を謳うポピュリストや国家主義に傾倒する。そのなかで、現在の行き詰まりの根源は、問題を悪化させるエリートたちが推し進めるグローバル資本主義であるとの主張が欧州のみならず、米国や日本でも勢いを得る。まさにグローバル化が最高潮に達し、進行中と見える2016年に、経済ブロック化の萌芽が加速する。
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