[小泉悠]【シリア問題、米露の消極的連携なるか?】~特集「2016年を占う!」ロシア~
Japan In-depth / 2016年1月8日 23時0分
ただ、中東でこれだけの混乱が広がっても依然としてロシアの命綱である原油価格は下落傾向を続けている。最大の需要国であった中国経済の減速、シェールオイルの採掘コスト低下、シェアを奪われたくないサウジアラビアの減産拒否といった要因を考えるに、ロシア経済は当面、原油安の条件下で生き残りを図るほかないだろう。
このため、ロシア政府は各種歳出カットに乗り出しているが、最大の支出項目である社会福祉と第二位の国防費については、カットは容易ではない。前者は国民一般からの、後者は軍や軍需産業からの支持に直結するためである。ことに今年は下院選を控えており、プーチン政権としては尚更、不人気な政策は実行しにくい。
それでもロシア財政が昨年から一気に苦しくなっていることは事実で、今年からスタートする予定だった新たな軍備近代化計画(10年間で30兆ルーブル)は開始が2018年に繰り延べられた。
アジアでも変化の兆し
北朝鮮が4度目の核実験を行ったことで、ここ数年蜜月が続いていた中露関係の動向が注目される。ロシアは以前から北朝鮮の核・弾道ミサイル開発が朝鮮半島における米国の軍事プレゼンスを増大させ、アジア太平洋でのミサイル防衛(MD)システム配備を加速させる結果になるとして強く反対してきた。
年末にロシアが公表した「国家安全保障戦略」ではアジア太平洋地域におけるMD配備に対して従来よりも強い懸念が打ち出されたばかりであり、実際に北朝鮮の核実験を受けた韓国が米国の「戦略的アセット」(THAAD弾道弾迎撃ミサイルを指す可能性がある)配備を求めている状況では、ロシアの懸念はより強いものとなろう。
安倍首相の訪露及びプーチン大統領の訪日が取りざたされる日露関係にも変化の兆しが期待できる。ロシアは北方領土におけるインフラ整備や軍事力近代化も並行して加速させており、領土問題の進展は今後とも容易ではないと思われるが、具体的な交渉の開始などはあり得るかもしれない。
中露関係については、ロシア側もウクライナ危機以降に進んだ過度の中国依存を懸念してはいる。ただし、これをどこまで脱せるかは米欧との関係完全に大きく依存しており、これには冒頭で述べた中東情勢、そしてウクライナ問題の推移が大きく影響することとなろう(ウクライナ問題については紙幅の関係で割愛)。
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