夢を売るビジネスに挑戦する男(下)~プロ野球選手のセカンドキャリア その3~
Japan In-depth / 2016年1月10日 14時29分
−野球は仕事
和田は巨人でも、スイッチヒッター。遊撃、二塁を守った。通算成績は199試合、89安打3本塁打31打点3盗塁、打率.234。しかし、全て二軍での成績だ。一軍に上がることはなかった。それでも、川相昌弘二軍監督(当時)には、「監督自身に似たタイプで、何でも器用にこなす自分は、良く起用された」(和田)と、スタメン、代打と良く使われた。ところが、二軍監督が岡崎郁に代わってから、「岡崎監督は、ホームラン打ってなんぼ、という考え方でしたから」(同)、出場の機会がめっきり減ったという。2013年には、自由契約になり、育成で再契約されたが、14年には、戦力外通告を受けた。
この年、切られる予感はあった。
再契約になった秋から、「来季にかけようと、めちゃくちゃ練習して、開幕レギュラーを勝ち取った。シーズン前半、飛ばして、調子も良く、チームで一番当たっていた」(和田)
それでも、忘れもしないその年の7月31日に、チームディレクターから呼び出され、注意を受けた。さすがに、和田は反発した。
「監督は、好みで選手を使ってるだけじゃないですか!!」
スタッフは反論した。「いや、それだけではない、何かがあるはずだ」と。
翌日、8月1日から、和田は試合でほとんど起用されなくなった。たまの代打、守備固めがせいぜいだった。その状況に「練習もやる気がなくなった」。試合で、最後に球場入りして、真っ先に球場を後にするのが気持ちを腐らせてしまった若武者という状況が、続いた。
その結果、10月1日東京・稲城市の読売ランドに隣接する球場の監督室に呼び出され、3対1の面談が待っていた。「オブラートに包むような、物言いでしたね。でも、あっさり首を切られました」(和田)。選手としての態度が、球界の紳士集団たる巨人の一員としてふさわしくないと、判断されたのだ。が、実力は、その際も、まだ買われていたので、他の球団のトライアウトの申込書を手渡された。
和田は、この頃には「野球は仕事」と割り切っていた。
「もう、野球はいいかな。全く新しい道を歩きたい」と。
申込書を受け取るまいと、何回も用紙を突き返したが、結局、その紙切れを手にして部屋を辞したが、直後に、破り捨てた。
−出会い
新しい人生を見出さなければならなくなった22歳の若者は、すでに企業人として世で活躍を始めていた巨人育成同期の川口寛人(30)らに、“その後”について相談した。焼肉店の雇われ店長を勧めてくれた知人の誘いを受け、勤め始めた。プロ野球OBには、飲食店経営で成功している人間もいたので、興味を持っていた。店頭での接客の仕事、牛肉の部位など必死で覚えた。しばらくは無我夢中で、新しい仕事がとても楽しかった。が、ある日、ふと疑問が湧いて来た。
「自分の保険等の社会保障はどうなっているのだろう。万が一、病気になった時の国民保健や、ここをクビになったら雇用保険など下りるのか」。誰も、教えてくれる者はなかった。自分の足元が、あまりに危ういことに不安を覚えた。再び、川口の元を訪れた。
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