[林信吾]【経済効果の二都物語:オリンピックの6個目の輪 その4】~経済・財政から見る五輪~
Japan In-depth / 2016年1月18日 11時0分
最初のロンドン五輪、すなわち1908年の大会と、未だ記憶に新しい2012年の三度目の大会とを比較して、開催費用が(インフレを勘案しても)6385倍にもなったと前回述べた。
その理由のひとつが、意外に思われるかも知れないが、世界が平和になったことである。先進国同士がその存亡を賭けて戦うという形態の戦争は、第二次世界大戦以降、起きていない。たとえ冷戦があろうとも、戦乱や経済混乱により、五輪が中止に追い込まれるようなことはなくなったのだ。
加えて1960年代以降、植民地の独立が相次ぎ、ただでさえ参加国が増えたというのに、そうした新興国にとって五輪とは、平和の祭典である以上に、国威発揚の場であると受け取られた。小国でも特定の種目では大国を倒すことができる。
参加国が増えれば、出場選手も増える道理で、それに伴い会場や宿舎の規模もどんどん大きくならざるを得ない。それ以上に、戦勝国であると敗戦国であるとを問わず、戦後の復興が一巡して経済成長へと向かう中、経済はインフレ基調になってきていた。
そして1976年、モントリオール五輪が開催される。
開催が決定した時点では、3億ドル強と見積もられていた予算が、いざ本番となった時には、実に13億ドルにまで膨れ上がっていた。主たる原因は、1973年の石油ショックがもたらした物価高騰である。一定以上の年代の読者は、同時期の日本も「狂乱物価」と呼ばれた世相であったことをご記憶だろう。
結果的に、この大会は10億ドル(当時のレートでは約3000億円)もの赤字を出してしまい、市民はその後も長く、増税に苦しめられることとなる。これを見て、一時期は五輪誘致に手を挙げる都市がなくなりかけたほど、その影響は大きかった。
窮余の一策は、五輪の主要な理念のひとつであるアマチュアリズムと決別することであった。もう少し具体的に述べると、様々な種目でプロ選手に出場の道が開かれ、TV放映権料を収益の柱とするなど、露骨なまでの商業化が進んだのである。
同時に、観光客誘致やインフラ整備のための公共投資を拡大し、もって経済効果を期待する傾向にも拍車がかかった。その集大成と言われるのが、1992年バルセロナ五輪である。大会それ自体の収支は、380億ペセタ(当時。邦貨にして約400億円)ほどの赤字を計上したのだが、開催にともなう公共投資によって、地下鉄網と、およそ40分で市街を一巡できる環状道路が整備された。
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