[林信吾]【もっとパラリンピックに注目しよう:オリンピックの6個目の輪 その6】~経済・財政から見る五輪~
Japan In-depth / 2016年1月25日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
本シリーズでは「五輪」という表記を用いてきたが、これは毎度「オリンピック・パラリンピック」と書いていては、いかにもくだくだしいからである。オリンピックだけならば、それほどでもないのだが、そうは行かない。2020年東京五輪を考えるに際して、パラリンピックを忘れることなどできないのだ。
2012年ロンドン五輪が、東京にも幾多の教訓を遺してくれたわけだが、実はパラリンピックも、ルーツは英国にある。1948年、バッキンガム州アイルズベリー(大学都市オックスフォードの近く。最近はロンドンのベッドタウンにもなってきている)の病院で外科部長を務めていた、ルードヴィヒ・グットマンという医師が、第二次世界大戦で脊髄を損傷した傷痍軍人のリハビリのために、車椅子アーチェリー大会を企画した。
名前だけ聞くとドイツ系と思われるが、彼はナチス政権から逃れて英国に渡ってきた、いわゆる亡命ユダヤ人である。戦後わずか3年、傷痍軍人の社会復帰を目指す治療とリハビリは、英国のみならず世界中の関心事であったと言って過言ではなく、この車椅子アーチェリー大会の反響も、当然ながら大きかった。グットマン医師は、英国障害者スポーツ協会の創設にも尽力し、その功績によって、民間人は滅多にもらえない大英帝国勲章を授与されている。
さらに、各国の医師やスポーツ関係者が様々な競技を考案し、1960年には、ローマ五輪の会場跡地を利用する形で、最初の世界大会が開かれるまでになった。この次の大会が、言うまでもなく1964年東京五輪であるが、この時から正式に、オリンピックとパラレルに(並行して)開催されるパラリンピックとなったのである。
東京五輪に先駆けて、グットマン医師の活動から強い影響を受けた、大分県の中村裕(なかむら・ゆたか)医師が、車椅子マラソンなどを企画しており、彼の活動も東京でのパラリンピック実現に大きく寄与した。彼は今も「日本パラリンピックの父」と呼ばれる。つまり東京は、アジアで初めてのオリンピック開催都市であると同時に、第一回パラリンピック開催の栄誉にも浴しているのだ。
五輪開催年とあって、スポーツ全般への関心が高まっているのは結構なことだが、リオデジャネイロでメダルがいくつ取れるか、という話題ばかりでは、いささか寂しい気がする。世界最高峰のアスリートの真剣勝負も、たしかに素晴らしいが、パラリンピックこそ、もっと関心事になってよい。いや、なるべきだ。
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