ジャカルタ・テロは「始まりの始まり」か〜“ISのアジア進出懸念”が払しょく出来ぬ5つの理由〜
Japan In-depth / 2016年1月28日 18時0分
千野境子(ジャーナリスト)
インドネシアの首都ジャカルタで1月14日に起きた連続爆弾テロ事件は、自爆テロの封じ込めがいかに至難かを再認識させた。同時に事件は中東で守勢を伝えられるイスラム教スンニ派武装組織「IS(イスラム国)」が、世界最大のイスラム教徒の国インドネシアから東南アジアへと触手を伸ばす「始まりの始まり」ではないかとの懸念も膨らませた。東南アジアはいまや南シナ海問題に加えてIS問題でも備えを迫られている。
インドネシアの爆弾テロ事件は、2002年10月に観光地バリ島のディスコなどで起きた連続爆弾テロが過去最大級だ。日本人2人を含む202人が亡くなる大惨事だった。また首都ではその翌03年に米国系ホテルの前で車爆弾が爆発、12人が死亡し約150人が負傷、09年にも米国系ホテル2か所で起きた自爆テロで7人が死亡、約50人が負傷した。これらはいずれも国際テロ組織アルカーイダに繋がる、インドネシアを根拠地とするイスラム過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)が深く関与したものだった。
しかしこれ以降はユドヨノ前政権の取締りが功を奏し大きな爆弾テロは起きておらず、イスラム過激派の防波堤の役割をインドネシアに期待する向きもあった。昨年末には当局が不審人物の逮捕や爆発物などを相次ぎ摘発、テロを未然に防いだばかりでもあった。
ところが、やはりというか遂に2人(他に容疑者5人)が死亡するISの自爆テロは起きた。これまでの調べから爆発物はそれほど強力なものではなく、テロとの戦いで当局はまだ優位に立っている。また容疑者の自宅などからISの旗などが見つかったが、彼らがどこまでISと組織的に連携し、周到な計画を立てていたかも疑問だ。恐らく綿密な準備なしに、あるいは準備出来ずに急ぎ行動に出た公算が高い。
つまり今回の連続爆弾テロは、痛ましい犠牲者を出してしまったことを除けば「想定の範囲」に留まったと言える。その意味では昨年、世界を震撼させたパリ連続爆弾テロとは異なる。しかし以下に述べるように、今後も楽観できる保証はない。むしろこれからが正念場だ。
第一に容疑者たちは必ずしも筋金入りのISメンバーではなかった。逆に言えばだからこそ危ない。イスラム社会のインドネシアは日本のようなイスラムとの距離感も少ないから、さまざまな理由からISに走り、挙句に洗脳され、自爆テロの戦士になる予備軍は潜在的に相当数いると考えられる。このような人間の動向を全員把握するのは不可能に近い。
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