福島県相馬市で孤独死が少ないわけ~機能した地域社会の絆~
Japan In-depth / 2016年2月5日 23時0分
この状況は、福島県浜通りとは全く違う。相馬市の仮設住宅で孤独死されたのは、これまでに一人だけだ。南相馬市の精神科医堀有伸氏は「アルコール中毒や孤独死は目立ってはいません」と言う。勿論、程度問題だが、阪神大震災とは比較にならないのは間違いないだろう。
なぜ、相双地区では孤独死が少ないのだろう。堀氏は「比較的出身地の近い方がまとまって住んでいるなど、神戸の反省が随分いかされている面もあるが、それ以上に地域社会が機能していることが大きい」という。
私は、この差は神戸と相馬の歴史に起因すると思う。相馬の歴史は長い。鎌倉時代から明治まで相馬家が領有した。武勇に秀でた一族だったという。わずか6万石の大名が、伊達、豊臣、徳川に滅ぼされなかったのは驚くべきことだ。
生き残りのための努力は涙ぐましい。戦国時代、伊達政宗に対抗すべく、常陸の大大名である佐竹氏に与した。豊臣秀吉の小田原征伐では石田三成に取り入った。関ヶ原の戦いの後は、徳川家康の謀臣本多正信に近づく。危機に際して、外部勢力を使うのが上手い。
住民も必死だった。江戸時代初期には二度の大津波が襲った。慶長・元和の大津波だ。沿岸部は大きな被害を受け、多数の死者を出した。ただ、彼らは負けなかった。故郷を捨てることなく、復興させた。
相馬地方は多くの試練を生き延び、一つのコミュニティーとして成熟していった。婚姻・仕事・学校などを通じて、時間をかけて地域の連携を深めてきた。
このような人間関係は、時に煩わしい。しかしながら、一旦、災害が起こると威力を発揮する。額田氏は「人間関係こそがこの世の最良のライフライン」と言う。悲しいかな、このような人間関係は一朝一夕では形成されない。地域コミュニティーの完成度において、神戸と相馬では大きな差がある。それが、孤独死の差へと繋がった。
放射線問題や医師不足など、相馬地方は多くの問題を抱えている。ただ、この地域には強い地域社会が残っている。さらに、外部ネットワークを用いる伝統がある。私も、その中の一人だ。
歴史は繰り返す。この地方の人々を見ていると、今回の災害も一体となって克服するだろうと思う。このような歴史的大事件に関わることになったご縁に驚いている。微力ながらも引き続き努力したい。
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