拉致事件初の英語本出版~その紹介に動かぬ日本政府~
Japan In-depth / 2016年2月6日 19時0分
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
ワシントンにある韓国政府系の研究機関「米国韓国経済研究所」(KEI)で2月3日、「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」と題するセミナーが開かれた。その題名、つまり「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」というタイトルの新刊書についていろいろと討論する集まりだった。まずはその本の内容を著者のアメリカ人ジャーナリストのロバート・ボイントン氏が紹介し、アメリカ側の専門家たちが見解を述べるという集いである。
このセミナーは日本にとって特別な意味があった。実はこの書は北朝鮮による日本人拉致事件の内容を英語で詳述した初めての単行本だったからだ。であれば当然、日本の団体、最も自然な例としては日本外務省が大々的に宣伝してしかるべき書である。
日本人拉致事件は驚くほど諸外国の一般には知られていない。アメリカがまさにその典型だといえる。なんの罪もない日本人の若い男女が日本国内、しかも自宅の近くで北朝鮮政府の工作員に襲われ、身体の自由を奪われ、北朝鮮へと拉致されて、そのまま長い歳月、拘束されたまま、という世にも非道な事件はアメリカではほとんど知られていないのだ。
だからこの事件について英語で解説した本というのは日本側からすれば大歓迎である。事件を日本の外部の人たちに少しでも多く知らせて、日本側の味方につけることが有意義だからだ。そのためには日本語以外の言語での事件の報告がなければならない。
だがこれまで日本人拉致事件を英語で紹介した文献は米側民間の調査委員会の報告書などがあるだけだった。商業ベースでのふつうの英文の単行本はなかったのだ。そんな背景で初めての英語の本というのがこの「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」だったのだ。拉致事件を国際的に知らせる点での意味は大きく、日本側も重視すべき書なのである。
この書は2016年1月中旬にアメリカとカナダで一般向けのノンフィクション作品として発売されたのだ。同じ時期にニューヨーク・タイムズの書評欄でも同書は大きく取り上げられた。出版元はニューヨークの伝統ある「ファラー・ストラウス・ジロー」社だった。
著者のボイントン氏はニューヨーク大学のジャーナリズムの教授でもあるが、日本滞在中に拉致事件を知り、「この重大事件の奇怪さと米国ではほとんど知られていない事実に駆られて」取材を始めたという。ボイントン氏は数年をかけて日本や韓国で取材を重ね、とくに日本では拉致被害者の蓮池薫氏に何度も会って、拉致自体の状況や北朝鮮での生活ぶりを細かく引き出していた。また同じ被害者の地村保志、富貴恵夫妻や横田めぐみさんの両親にも接触して、多くの情報を集めていた。その集大成を平明な文章で生き生きと、わかりやすく書いた同書は迫真のノンフィクションと呼んでも誇張はない。
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