トランプ候補、また排外主義 その1 米国生まれのみ大統領資格?
Japan In-depth / 2016年2月12日 18時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米大統領選のニューハンプシャー州共和党予備選で2月9日に圧勝し、「中国や日本、メキシコを貿易で打ち負かす。これらの国は日々、われわれから多額の金を奪っている」との持論を再びぶち上げた不動産王ドナルド・トランプ氏。党内外のライバルに対してまで排外的な攻撃を仕掛け、物議をかもしている。
トランプ氏は前回2012年の大統領選に出馬した際、「オバマ大統領は米国生まれではなく、大統領資格がない」と、父親がケニア人のオバマ氏を攻撃して注目を浴びた。今回の攻撃対象は、同じく共和党大統領候補のテッド・クルーズ米上院議員だ。ニューハンプシャー州予備選では第3位、それに先立つアイオワ州予備選では第1位と、まずまずの成績を収めている。
トランプ氏によると、キューバ移民の父と米国人の母のもとに、カナダで1970年に出生したクルーズ氏は、「米国憲法が定める、大統領資格の『生得の米国市民(natural born citizen)』という条件を満たしていない」というのだ。白人主流の米国社会の基準から外れた者に敵意を向ける手法には一貫性がある。
クルーズ氏は出生主義のカナダで生まれたためカナダ市民権を持ち、米国人の母から血統主義で米国市民権を受け継いだため二重国籍者だった。しかし、「米国の政策立案や実行に携わる連邦上院議員が二重国籍であるのは、不適切だ」との批判を受け、2014年にカナダ市民権を放棄している。
一方、キューバ人の父親はクルーズ氏の出生をキューバ政府に届け出なかったため、出生時にキューバ国籍は取得できず、三重国籍者にならなかった。そもそもキューバは多重国籍を認めておらず、キューバ国籍取得は不可能だった。
トランプ候補は前回の選挙で、オバマ氏がハワイ州生まれであることが公文書から明らかであるにもかかわらず、「米国外で生まれたオバマ氏は、大統領になれない」と言い張った。これは、単なるでっち上げの確信犯に過ぎなかった。
しかし今回は、違う。米国内で生まれたオバマ氏とは違い、クルーズ氏はカナダ生まれだ。米国の有力な憲法学者たちでさえ、憲法が定める「生得の米国市民」の意味について意見が一致せず、大統領資格が米国生まれで市民権を生得した者のみに与えられるのか、血統主義を通して市民権を生得した者にも資格があるのか、割れているからだ。
米国で法律分野の論文の被引用数が4番目という、強い影響力を誇るシカゴ大学法学部のエリック・ポズナー教授は、1787 年9 月に制定され1788 年6 月に成立した憲法の当時の起草者の元来の意図は、「米国生まれの者のみが、大統領に選ばれる資格を持つ」であり、クルーズ氏にその資格はないとする。
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