トランプ候補、また排外主義 その2 米国とは何か、米国人とは誰か
Japan In-depth / 2016年2月12日 18時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米大統領共和党予備選で現在、トップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏は、カナダで出生した党内ライバルのテッド・クルーズ米上院議員が「米国生まれではなく、憲法上、大統領資格がない」と攻撃している。だが、リベラル・保守双方の多くの高名な憲法学者たちが、トランプ氏に同調している。排外主義のトランプ氏にある意味お墨付きを与えたわけだ。ポズナー教授だけではない。ハーバード大学法学部で若きクルーズ氏を教えたローレンス・トライブ教授も、自らの教え子が「資格なし」だと手厳しい。
対して、エール大学のジャック・バルキン教授や、サンディエゴ大学のマイケル・ラムゼー教授などは、憲法制定当時の起草者は英国法をモデルにしており、当時の英国法では外国で英国人の親のもとに生まれた者を『生得の英国臣民』とする「みなし解釈」をしていたことから、これが起草者の念頭にあり、米国憲法にも援用されたとする。また、「クルーズ氏が生まれた1970年当時の法律では、外国で米国人の親のもとに生まれた者ははっきりと、『生得の合衆国市民』と解釈されており、クルーズ候補は大統領になる資格がある」と主張する。
この「1970年当時の米国法に基づく生得の市民権」というのは、多少のフェミニスト的主張も含んでいる。1936年まで、外国人と結婚した米国人女性は自動的に米国市民権を失い、夫の国籍を取得することになっていた。だから、1936年以前であれば、母親は血統主義で米国籍をクルーズ氏に継がせることはできず、同氏は「生得の市民権」を取得できなかったことになる。「1970年当時の米国法に基づく生得の市民権」に基づく大統領資格を主張することは、女性の権利から米国人であることを主張することにもなるのだ。
また、トランプ氏がクルーズ氏の資格問題を取り上げたとばっちりで、クルーズ氏の家族の「過去」まで公にさらされることとなった。母親は1956年にクルーズ氏の父親とは別人の米国人男性と英国で結婚しており、離婚後、父親が不明の男の子を産んだが、最初の夫の子と偽った。その乳児が1966年頃に原因不明の突然死を遂げた後、彼女は米国に戻ってキューバ人であるクルーズ氏の父親と1969年に米国で結婚し、1970年にクルーズ氏がカナダで生まれたのだ。
クルーズ氏の生い立ちは、出生後にすぐケニア人の父と米国人の母が離婚し、母親の新しいパートナーのもとでインドネシアやハワイなどで育ったオバマ大統領の国際的な背景を彷彿とさせる。もはや18世紀後半の米国憲法制定時とは違い、20世紀後半には米国の覇権拡張や国際化に伴い、子供たちが米国外で生まれたり、多重国籍を持つのが当たり前となっていたのである。その点、大統領になれる「生得の米国市民」を米国生まれのみと狭く解釈するのは、現実にそぐわない面も出てきているのだ。
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