こんなに違う「欧・米」の税制(下)~消費税という迷宮 その2~
Japan In-depth / 2016年2月17日 7時1分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
米国には消費税はない、と言うと、驚いた顔をされることがよくある。
とりわけ短期間でも米国に住んだ経験がある人は、たしか小売税取られてましたけど、といった反応を示すことが多い。
ここは誤解をきちんと解いておかねばならないが、米国における小売税とは、あくまでも各州が課しているもので(税率4~8%)、合衆国政府は関与していない。つまりは一種の地方税であるが、米国の各州は、なにしろ独自の憲法や軍隊を持つほどに独立性が高く、したがって課税対象や税率もまちまちなのだ。
小売税はまた、商品流通の最終段階=小売価格にのみ課税されるのに対し、消費税は仕入やサービスにも課税されるという違いも知っておいていただきたい。それでは米国において、過去にも消費税のような大型間接税導入論議がなかったのかと言えば、実はあった。最初は1972年春のことで、時のニクソン大統領が、深刻化する財政赤字(主たる原因はヴェトナム戦争の泥沼化)への対応策として、大型間接税導入を諮問した。
しかし、その後(同年6月)に起きたウォーターゲート事件をきっかけに、大統領が失脚に至るという大きな政治的変動があって、具体的な議論すらないまま立ち消えとなってしまったのである。その後も財政赤字の問題は解消されず、1979年、さらに1985年にも導入論議が提起されたが、いずれも政府が採用するところとはならなかった。そして1986年、二期目に入ったレーガン政権によって、こうした税制論議にひとまず決着がつけられる。読者の便益を考えて、話を大型間接税に絞ると、
① 逆進性が強く、不公平である
② 税収は増えるが財政が膨張し、小さな政府の理念に反する
③ 物価上昇を招き、経済成長への足かせとなる
④ 新税のために、税務署員をおよそ2万人増員する必要が生じる
⑤ 多くの州で、すでに小売税が導入されている
……といった理由で、導入を見送るとしたのであった。
これでお分かりのように、米国における大型間接税導入論議は、もっぱら財政赤字からの脱却を目指して提起されてきたものなのである。
世論の支持がなかなか得られなかった理由が、ここにあると見て間違いないだろう。
しかもレーガン政権は、それまでの税収の柱だった所得税と法人税を減額かつ税制そのものを簡素化した。こう聞くと驚かれると言うより、今となっては信じがたいような話であろうが、レーガン登場以前の米国は、高度な累進課税が根付いていた。第二次大戦が終結した時点では、最高税率92%に達していたのである。
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