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帰趨を制する“一言の重み” 米大統領選クロニクル その2

Japan In-depth / 2016年2月21日 23時0分

帰趨を制する“一言の重み” 米大統領選クロニクル その2


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)


「古森義久の内外透視」


アメリカ大統領選挙では2月20日、サウスカロライナ州の共和党側予備選とネバダ州の民主党側党員集会での投票でまた一段と加熱した。共和党側ではドナルド・トランプ氏が、民主党側ではヒラリー・クリントン氏がともに首位となった。だがいずれもがなお他の候補者から激しい挑戦を受けており、予断を許さない。

さてこれまでの大統領選挙の展開を回顧すると、「致命的な一言」というのがときどきある。候補者のちょっとした言葉がとんでもない負の反応を招き、選挙戦の熾烈な争いでの敗北にまでつながっていく、という現象である。私がその実例を初めて目撃したのは大統領選の最初の取材、1976年秋だった。

この年は前回のこのコラムでも述べたように、現職の共和党のジェラルド・フォード大統領と民主党の新人ジミー・カーター候補の対決だった。長い長い大統領選も投票日前2か月ほどの9月の冒頭からは両党の候補がそれぞれ1人にしぼられ、文字どおりの対決となる。そんな時期の1976年10月、フォード、カーター両氏が公開のテレビ討論をしたのだ。

私はその前月に毎日新聞ワシントン特派員として赴任したばかりだった。だがすぐに大統領選挙の取材の一端に加えられた。その以前のアメリカ留学時代の友人がワシントンにもいて、議会や政府で働く同世代の男女を紹介してくれた。そうした新たな知人の1人、議会の下院議員の補佐官を務める女性が大統領選の討論会をテレビでみながらのパーティをするというのに招いてくれた。だから7、8人のアメリカ人たちとフォード・カーター論戦をみることになったのだ。

両候補はベテランの政治記者の司会で内政、外交と広範なテーマを論じていった。外交では当然、ソ連への対処が最大課題となった。なにしろアメリカとソ連がグローバルな規模で対立する東西冷戦の最中である。その課題での両氏の議論のなかでフォード氏が次のような言葉をさらっと述べた。

「東欧に対するソ連支配なんて、ありませんよ」

カーター氏がハンガリーやポーランドという東欧諸国がみなソ連の支配下にあることを指摘して、その対策を語り始めたときだった。

フォード氏のこの言葉にテレビ討論の司会者も一般参加者も一瞬、びっくりという様子がよくわかった。そしてなによりも一緒にテレビをみていたアメリカ人男女がぴたりと沈黙してしまった。明らかに仰天したという感じだった。なぜなら東欧諸国が政治的にも、軍事的にもソ連圏内に組み込まれていることは常識だったからだ。だからそのソ連支配(Soviet domination)がない、というフォード氏の言葉に普通の常識のあるアメリカ人なら驚いてしまうのは当然だったのだ。

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